Dear Hero
大護がいない間に終わった二学期の事。
冬休みの課題について。
塾の先生が薦めてくれた日本史の参考書のレビュー。

俺の話を「うん、うん」と聞いていた大護は、ふっと窓の外に目線を向けると表情を曇らせた。


「……ねぇ、哲ちゃん」
「ん?」
「紺野……どうしてた…?」


大護にしては珍しい、弱気な声だった。


「……当日はさすがに気が動転してたみたいだったけど、今は落ち着いてる…と思う」
「………そっか」



事件の後、大護が運び込まれた病院まで紺野と付き添っていった。
待合室のベンチで、ガタガタと震えながら、涙を堪えていた紺野。

大護だったら、こんな時どうしてあげるんだろう。
抱き締めてあげるのかな。
手を握るのかな。
きっと、心強い言葉をかけるに違いない。


俺は、どんな声をかけていいのかもわからず、震える紺野の隣に座っている事しかできなかった。


「飛鳥ちゃん、哲平くん」

声のする方を向くと、大護の母親と妹が来ていた。

「おばさん…!わ……私…っ」

おばさんの顔を見た途端、安心したのか気が緩んだのか。
堰を切ったように紺野の涙が溢れ出てきた。

「ごめんなさい…っダイくん、私を助けようとして…それでこんな事に……」
「大丈夫よ、飛鳥ちゃん。あの子、そんなやわな子じゃないわよ」
「でも…いっぱい血、出てたし……」
「最近、血気盛んだったからちょっとくらい問題ないわ」
「でも……」
「飛鳥ちゃん」
「……っ」
「あなたは怪我はないわね?哲平くんも」


おばさんの強い瞳に、俺も紺野も黙って頷く。

「……ならよかったわ。女の子護って代わりに殴られるなんて、大護も格好良くなったものね」


ふっと柔らかくなったおばさんの表情を見ると、安心したように泣き崩れる紺野。
大護の妹が、「飛鳥ちゃん、座ろ」と紺野を立たせてベンチに座らせた。
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