Dear Hero
しばらくは、年末年始でなかなか見舞いには行けなかった。
新学期が始まると、一気に受験モードが加速して毎日慌ただしく過ごしていたけど、時間を見つけては病院に通った。
俺の他にも、空手部のヤツらもよく来ているみたいだった。

結局、俺が紺野を誘う事は一度もなかったのだけど、一度だけ、病室前の廊下で紺野に出くわした事がある。


「……紺野?」

病室の前で、入るか入らないのかうろうろしている。
空手部のヤツらだろうか。
中からは、賑やかな笑い声が聞こえていた。


「…っ!……テツくん…」
「大護に…会いに来たんじゃないの?」
「何度か来てるんだけど……会ってもらえなくて」

眉を下げた笑顔なんて、紺野らしくないのに。

「……でも、ダイくんの元気そうな声聞いて安心した。今日は、帰るね」
「…っ紺野!」
「………」
「送るよ……」



年を越してから、陽が落ちる時間はだんだん遅くなってきてはいたけれど、風が刺すように冷たくて痛いのは変わらない。
マフラーで口元まですっぽりと覆った紺野がぼそっと呟く。

「……私のせいで、ダイくんに大怪我させちゃった…」
「いや、紺野のせいじゃないだろ」
「違うの。私のせいなの」
「あれは……」
「私が、“ダイくんに護られたい”なんて思ってたから。だから、私のせいなの……」

マフラーの上で風に揺れる紺野の髪は、肩まで届きそうになっていた。
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