Dear Hero
「昔っからね、ダイくんてすごく正義感が強かったの」
「……」
「いじめっ子から年下の子を助けてあげたり、喧嘩を止めに入ったり、声をかけてきた変なおじさんを追い払ったり」
「……」
「私の弟も、美咲ちゃんもさっちゃんも…あ、ダイくんのお姉さんと妹さんね…同じ道場に通っていた子も……みんな、ダイくんに助けてもらってた」
「……」
「でもね、私は助けてもらった事なかったんだ」
「……」
「そりゃね、小学生の時はダイくんより背も高かったし、空手で負けた事もなかったし、女の子らしくなかったかもしれないけど」
「……」
「………いつしか、ダイくんに護られる女の子になりたいって思ってた」
紺野の声が、震える。
「あの日、ダイくんが追いかけてきて護ってくれた事、すごく嬉しかったの。ヒーローみたいでかっこいいって、夢みたいって思った。私でも、護ってもらえるんだって」
「……」
「でも、その結果がこれだよ」
「……」
「私が…あんな事思わなければ…」
「……違うよ」
「違わない!だから、きっとダイくんも会ってくれないんだ…。もう……嫌われちゃったかもしれない…」
「紺野。そんな事絶対ないから」
「……っじゃあ!どうしてダイくんは会ってくれないの!?」
大粒の涙を零しながら、学ランを握った紺野は、俺の胸に頭を押しつけて大きな嗚咽を漏らす。
抱き締めてしまいそうだった。
俺なら紺野を泣かせたりなんかしない。
俺にしろよって、言いそうになった。
背中に回しかけた手が、触れる前に思い留まる。
「………」
伸ばした腕を元に戻すと、紺野の頭をゆっくりと撫でた。
「……大丈夫。大護が紺野を嫌うわけないよ」
「………」
「あれだよ、きっと…あの、ほら、まだだいぶ顔に傷残っててさ、すげー痛々しい顔だからさ、紺野に心配かけさせないためにそう言ってるんじゃないかな」
「………」
「あいつ……かっこつけたがりじゃん」
「………」
「この前も言ってたよ、イケメンが台無しになったって」
「……っふ」
だんだんと落ち着き始めていた紺野が、小さく笑った。
「大護はフツメンだよって言っておいた」
「……なにそれ、ひどい」
鼻を啜りながら、くすくすと笑う。
握っていた学ランを手離しシワを伸ばすと、「泣いたりしてごめんね」と涙を拭いながら俺の胸から頭を上げる紺野。
その涙を拭ってあげたいのに、20cmの距離がとても遠く感じる。
手を伸ばせば届くのに。
でも、触れたらこの関係が壊れてしまいそうで。
紺野の傍にいるためには、決して超えてはいけない一線だと思った。
「……」
「いじめっ子から年下の子を助けてあげたり、喧嘩を止めに入ったり、声をかけてきた変なおじさんを追い払ったり」
「……」
「私の弟も、美咲ちゃんもさっちゃんも…あ、ダイくんのお姉さんと妹さんね…同じ道場に通っていた子も……みんな、ダイくんに助けてもらってた」
「……」
「でもね、私は助けてもらった事なかったんだ」
「……」
「そりゃね、小学生の時はダイくんより背も高かったし、空手で負けた事もなかったし、女の子らしくなかったかもしれないけど」
「……」
「………いつしか、ダイくんに護られる女の子になりたいって思ってた」
紺野の声が、震える。
「あの日、ダイくんが追いかけてきて護ってくれた事、すごく嬉しかったの。ヒーローみたいでかっこいいって、夢みたいって思った。私でも、護ってもらえるんだって」
「……」
「でも、その結果がこれだよ」
「……」
「私が…あんな事思わなければ…」
「……違うよ」
「違わない!だから、きっとダイくんも会ってくれないんだ…。もう……嫌われちゃったかもしれない…」
「紺野。そんな事絶対ないから」
「……っじゃあ!どうしてダイくんは会ってくれないの!?」
大粒の涙を零しながら、学ランを握った紺野は、俺の胸に頭を押しつけて大きな嗚咽を漏らす。
抱き締めてしまいそうだった。
俺なら紺野を泣かせたりなんかしない。
俺にしろよって、言いそうになった。
背中に回しかけた手が、触れる前に思い留まる。
「………」
伸ばした腕を元に戻すと、紺野の頭をゆっくりと撫でた。
「……大丈夫。大護が紺野を嫌うわけないよ」
「………」
「あれだよ、きっと…あの、ほら、まだだいぶ顔に傷残っててさ、すげー痛々しい顔だからさ、紺野に心配かけさせないためにそう言ってるんじゃないかな」
「………」
「あいつ……かっこつけたがりじゃん」
「………」
「この前も言ってたよ、イケメンが台無しになったって」
「……っふ」
だんだんと落ち着き始めていた紺野が、小さく笑った。
「大護はフツメンだよって言っておいた」
「……なにそれ、ひどい」
鼻を啜りながら、くすくすと笑う。
握っていた学ランを手離しシワを伸ばすと、「泣いたりしてごめんね」と涙を拭いながら俺の胸から頭を上げる紺野。
その涙を拭ってあげたいのに、20cmの距離がとても遠く感じる。
手を伸ばせば届くのに。
でも、触れたらこの関係が壊れてしまいそうで。
紺野の傍にいるためには、決して超えてはいけない一線だと思った。