Dear Hero
三学期、大護は一度も学校に来ないまま俺たちは中学を卒業した。
あの成績で、授業も出ずに卒業できたんだ。
義務教育さまさまだよ。


卒業式の日にも見舞いに行った。
校長先生の代わりに卒業証書を読み上げて渡したら、「やめろよ」なんて照れていたけど、しっかりと両手で受け取っていた。


結局、紺野が病室に入る事はなかったと聞いた。

「紺野とは、会わなかったの?」
「……うん」
「毎日来てたのに」
「え、毎日?」
「あいつ、毎日来てたぞ。断られるからって、何も言わずに帰ってたみたいだったけど」
「………まじか…」


ベッドの上で胡坐をかきながら、頭を抱える大護。


「なぁ大護」
「ん?」
「中学卒業したぞ」
「………」
「告るんじゃねぇの?」
「………」


少しの沈黙の後、頭を上げた大護はどこか一点を見つめるようにぽつりと零す。


「……言わない」
「は…?」
「告んない……」
「なんで。何言ってんだよ」
「無理。言えない」
「何が無理なんだよ…っ」
「ダメなんだ。俺が……俺の気持ちが、もう壊れてる」
「………」
「あんなかっこ悪いところ見せておいて、今更何言えっていうんだよ……」
「………っ!」

思わず大護の胸倉を掴んでいた。
突然の事に、驚く大護。


“お前の気持ちはそんなもんか”?

どこの熱血コーチだよ。


“ここまで引っ張ってきて、なんだよそれ”?

ダメだ、俺の気持ちが見えちゃいけない。


“紺野の気持ちはどうなるんだ”?

違う、あいつの気持ちは俺が伝えるものじゃない。


このまま殴ってやろうか。

いや、やっと怪我が治ったばっかだぞ。


言ってやりたい事はたくさんあるのに、うまく言葉が出てこない。
溜め込んでいた気持ちが溢れ出てきてしまいそうで、せき止めるように大護のシャツを掴む手に力を入れる。
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