Dear Hero
夏休みが終わって二学期が始まると、孝介に彼女ができていた。
「おめでとう!」と祝う俺の隣で、しんだ顔の大護。

「俺、別れた」
「早くね!?」

孝介をいじるつもりでいたのに、そんな事言われたら大護の話を聞かざるを得ない。
「俺の話はいいから」と孝介が苦笑していた。

「だってさ、“ゆっくり好きになってくれたらいい”つってたのにさ、“いつになったら好きになってくれるの?”だぞ?」
「好きにならなかったの?」
「んー……なんか、違った」
「何と、違ったの?」
「………」

ギシッと軋むかのように大護の動きが止まる。
まぁ、誰の事なのかはわかりますけど。

「なんかさぁ、毎日電話してとかさ、他の女の子と話しちゃ嫌とかさ、メール送ったら5分以内に返してとかさ、無理じゃね?」
「あぁ…典型的な女子だ」
「バイトあるつってんのにさ、バイトと私どっちが大事?とか言うしさ」
「社会人でそれはよく聞くけど学生でもあるんだな」
「かといって遊びに行ったら俺のが多く払わなきゃいけない雰囲気だしさ」
「うわー…」
「無理。女ってよくわからん。めんどくせぇ…」


軟体動物のように机に頭をくっつける。
振られた事よりも、違う部分で受けたダメージが大きいようだ。


「孝介の彼女はそんな事言わねぇの?」
「言うような子だったら付き合ってない」
「だよな」

突っ伏する大護の上に、大きな岩が降ってきたみたいに追加ダメージを食らってる。


「しばらく彼女とかいらない。女、怖い」

休み時間の間、大護はブツブツと呪文のように繰り返していた。




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