Dear Hero
「ダイくん、もう振られたの?」

学校の帰り道。
自転車を押して歩く俺の隣で、紺野は目を真ん丸にした。


「そう。“もう”振られたの」
「そっかー……」
「人が振られたって言うのに、ニヤニヤするなんて悪い女だな」
「しょ、しょうがないじゃん…!」
「告る気になった?」
「す…すぐにはできるかわかんないけど……」
「あ、でも“しばらく彼女いらない”って言ってた」
「え……」
「まぁ、紺野は別だと思うけどな」
「どういう意味?」

今度は眉を寄せて口がむきゅってなっている。
俺の言葉一つでこんなに表情がころころ変わるのが、ちょっと楽しい。

「紺野、女子っぽくないじゃん」
「えっ…女子力足りない…!?」
「あ、ごめん。語弊があるな。キャピキャピしてないじゃん」
「してないと…思うけど…」
「そうゆう女子が苦手なだけだと思うよ、大護」
「あぁ…美咲ちゃんっぽい人か…」

ほっとしたように笑う。

「安心した?」
「……なんでテツくんまで嬉しそうなのよ」
「別にー」
「……っ」

怒った紺野に背中を思い切り叩かれる。
風呂入る時に見たら、ちょっと手の痕が残ってた。



どうして大護が振られて喜ぶ紺野を見て、ほっとしたんだろう、俺。
大護が他のヤツと付き合ってる方が、紺野と付き合える可能性は高いのに。


無理に抑えていた気持ちが、いつの間にか自然になっていた。

おそらく、大護にはもう気持ちはないから、二人が両想いになる事はないんだろうなと思う。
紺野の想いは、きっと届かない。


それでも俺は、最後まで紺野の恋の行方を見届けたかった。


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