Dear Hero
年も明けた三学期。
休みボケが治まらないとある日、俺はすこぶる機嫌が悪かった。

理由は大した事ではない。
前の日に兄貴と喧嘩したとか、朝のニュースの占いで蠍座が12位だったとか、通学時に信号に全部引っかかったとか、どの授業でも毎回当てられたとか、授業中に携帯が鳴って没収されたとか。
本当にくだらない事が積み重なっただけ。

「哲平でもイライラする事あるんだな」
「俺だってそれくらいあるよ。能天気バカですけどね」
「……気にしてんだ」
「哲ちゃんが怒っても怖くないけどな」
「怒ってねぇ!機嫌悪いだけ!」


もう一人の日直だった女子が目を離した隙にとっとと帰ってしまったので、イライラしながら日誌を書いていると、隣で大護と孝介の呑気な笑い声。
普段ならなんともないその光景さえも、俺のイライラを増幅させる要因となっていた。

「……大護たちも先帰ってていいよ」
「いいよ、すぐ終わるだろ?待ってる…」
「ううん、帰って。たぶん、すぐには終わらない」
「………わかった。また明日な」

普段とは違う俺の雰囲気に何かを察したのか、大護と孝介は教室を出て行った。
あいつらは何も悪くないのに。
八つ当たりしてしまった事に、また自己嫌悪に陥る。



……あぁ。
イライラの原因、一つ思い当たる事があったわ。


紺野。


高校生になってからも、紺野とは頻繁に連絡を取り合っているし、よく一緒に帰る事もある。
中学生の頃は、二人で帰るだけでドキドキして緊張していたのに、なんだか当たり前の光景になりすぎて、今では気を遣う事もなくなってしまった。
昔は口を開けば「大護、大護」だったのに、最近、その名前が出てくる事が少なくなってるの、本人は気づいているのだろうか。

進む事も終わる事もしない紺野の恋に、だんだんと俺は気持ちが離れ始めていた。


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