Dear Hero
いつもなら相づち打ったりツッコんだり、会話のキャッチボールが続くのに、ボールを捕ろうとしない俺に気づいた紺野は、だんだんと口数が少なくなる。
初めて二人で帰った時だって、もう少し会話は弾んだのに。
こんなに無言が続くのは、初めてだった。



「テツくん。今日どうし…」
「なぁ紺野」
「……っ」
「お前、大護の事どうすんの?」


沈黙に耐え切れなかったのか。
困ったように口を開いた紺野を遮った。
紺野の足が止まったのを見て、俺も足を止めた。


「どうするって……」
「大護が別れてからもう半年近く経つけど、いつ言うの?」
「それは……」
「昔と違って近くにもいられないし、会う事すらできてねぇのに。今のままで満足してんの?」
「………」
「それとも、諦めた?もう言わねぇの?」
「………」
「もう諦めたのなら言って。俺も応援すんのやめるから」
「………っ」
「言ったよな。俺にも好きなヤツいるって。お前の恋、見届けるまではって思ってたけど、進みもしないし終わりもしないし、いつまで付き合ったらいい?」
「………」
「……お前らの事、大事だからうまくいって欲しかった。本気でお前の恋、応援してた」
「………」
「でも、もう無理だわ。俺、そこまでお人好しじゃねぇし」
「……っ」
「あとは、一人でやって」



自分でも驚くくらい冷静だった。
こんなに低く淡々と話す自分なんて、自分じゃないみたいだった。
きっと、冷たい目をしていたんだろうな。

俺を見つめる大きな瞳が、揺れている。
光を失ったような表情。
大護に彼女ができたと聞いた時よりも、ひどい顔をしていた。



「……今まで、お疲れサマでした」
「ま……待って、テツくん!」


自転車に跨ろうとする俺の制服を掴む。
苦しそうに口で呼吸をしながら、次の言葉を探すように視線が泳ぐ。


「……何?」
「あの……ごめんなさい、違うの…」
「……何がごめん?何が違うの?」
「それは……」
「何も進展しなかった事?諦めた事?それとも……俺の気持ち利用してた事?」
「………っ!」

俺の腕を掴んだまま、大きく震える紺野。
あぁ、そう……。
そういう事か。


腕を振り払うと、傷ついたような顔をした。


なんで?
なんで紺野がそんな顔すんの?


心に傷がついたのは、俺の方なのに。
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