Dear Hero
「……ダイくん、水嶋さんて子の事、好きなのかなぁ」


テーブルの上で組んだ腕を枕に、ぽつりと呟く。

「あのね。ダイくん、水嶋さんの事見る眼がすごく優しかったの」
「………」
「あんなダイくん、初めて見た……」

昔は、お前もそんな風に見守られていたんだけどな。


「水嶋さん、小さくて可愛くて、護ってあげたくなる感じの子だった」
「………」
「今は、あの子を護ってるんだね」
「………」
「………いいなぁ…」



少しだけ口をつぐむと、大きく息を吐いて顔を上げ、俺を見つめた。
慌てて俺も姿勢を正す。


「今日呼んだのは、この事を言いたかっただけじゃないの」
「………」
「半年前の事、謝りたくて」
「………」
「テツくんに言われて、気づいた。やっと気づけた」
「………」
「私、ずっとテツくんの優しさに甘えてた」
「………」
「テツくんが傍にいてくれるのが当たり前になってて、そのありがたさも何もわかってなかった」
「………」
「テツくんの気持ちを利用してた…って言い方はちょっと違うかもしれないけど、でもそうだったんだなって」
「………」
「ずっとテツくんは応援し続けてくれてたのに、私は勇気も出せずに、終わらせる事もできずにテツくんの大事な時間ばかりもらってた」
「………」
「本当は、もう随分前にダイくんへの気持ちは小さくなっていたの」
「………」
「でも、それを言ったらテツくんとの時間も無くなっちゃうんじゃないかって」
「………」
「テツくんにも好きな子いるのにね……。私がその時間奪っちゃった」
「………」
「ごめんなさい。そして……本当にありがとう」


そこまで言い切ると、紺野の目からぽろっと涙が零れた。
それに気づくと、慌てて涙を拭って「ごめん、そういうつもりじゃなくて…」と焦って弁解する。


いつだったか、大護の事で紺野が泣いていた時に、俺なら紺野を泣かせない、なんて思っていたけど。
この涙の原因は俺なんだよな。


涙が止まらない事に焦って、余計に溢れてくるのでは。


テーブル越しにそっと手を伸ばす。
気づいた紺野が、手を止める。

親指で涙を拭う……


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