Dear Hero
「そういえば、紺野に会った」

夏休み中、孝介と三人で遊んでいた時、急に大護が話を振ってきた。
大護の口から一年半ぶりに出てくるその名前に、一瞬言葉が詰まる。

「……へぇ。どうだった?」
「元気だったよ。……久しぶりだったから、最初は何話していいのかわかんなくなったけど、紺野が昔と変わらない感じで話しかけてくれたから普通に話せた。今は、割と昔みたいな感じ」
「よかったじゃん。……うっかりまた好きになっちゃったんじゃねぇのー?」
「………ぶっちゃけ、ちょっとグラッときた」
「!?まじかよ」
「いや!でも!だからってどうこうなりたいとか、そんなんじゃないから!」

慌てて取り繕う大護。
あぁそう。もう水嶋一筋ってわけか。


「……哲ちゃんは、紺野が同じ学校だって知ってた?」
「………っ」


どうしよう。
どう答えるべきなんだろう。

助けを求めるように孝介を見るも、その目は「自分で考えろ」と言っている。
ここは知らなかった体で……


………いや、ダメだ。
大護にウソはつきたくない。

「……うん、知ってた」
「なんだよ、知ってたんなら教えろよな。俺、空手部の奴から聞いてたんだけど、ちっとも紺野と会わないから本当なのかわかんなくてさぁ」
「……紺野と会いたかったの?」
「………」


あぁ。
思い出した。
なんで俺があんなに必死で二人を会わせないようにしていたのか。


「だって、大護会いたくないって言ってたじゃん」
「………」
「いつまで経っても“会いたい”って言わなかったから。だから教えなかった」
「あぁ、そっか……。俺、か……」

頭を抱えるように髪をぐしゃっと握ると、はああっと長く息を吐いた。
心臓がドクドクいってる。
余計な事……だったのかな。


「……なんか、すごいよな」
「…何が?」
「“会いたい”って思わなかったら、隣のクラスでも会わないもんなんだな」
「………」


大護がバカで、俺は心底ほっとした。
孝介は後ろ向いているけど、震えている肩で笑うの堪えてるのバレバレなんだよ。


「……今でも、会いたくないって思ってんの?」
「いや……気持ちの整理がついた今だったからよかったのかな。今なら、会いたいと思うよ」
「……」
「“友だち”として、だけどね」


顔を上げた大護は、穏やかな顔で笑う。

「ありがとな、哲ちゃん」


その“ありがとう”は、何に対しての“ありがとう”なのかはわからなかった。
だけど俺はいい解釈で受け取っちゃうから、俺が裏で暗躍していた事は間違っていなかったって、思っちゃうからな。




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