Dear Hero
大護と再び顔を合わせるようになった紺野は、すっかり元通り。
「大護、大護」とうるさくなった。

実行委員の集まりで顔を合わせた、廊下ですれ違った、ちょっと立ち話した。
そんな時はファストフード店に呼び出されるか、駐輪場で待ち伏せされるか。
もれなく俺は紺野に捕まるのだった。


「……やばいね。なんかダイくん、大人っぽくなった?」
「頭の中は成長してないぞ」
「なんか男らしくなったっていうかさぁ」
「男性ホルモンの影響じゃね?」
「笑い方もちょっと優しくなったのかなぁ」
「俺はブッサイクな顔で爆笑してるところばっか見てる」
「……ちょっと。なんでそんな現実的な事ばっか言うのよ」
「お前が大護に夢見すぎだからだろ。あいつ、ただの大護だぞ?」
「なによ!ただの大護って!」

ぷんすかと頬を膨らましながらも俺の隣を歩く紺野。
夏休みが終わってもずっとこんな調子だ。
突然の再会は、鎮火しかけた紺野の恋をあっという間にメラメラと燃え上がらせてしまったらしい。

その名を出さなくなった時には心配していたのに、聞くようになったらなったでちょっとめんどくさい。
実らない恋だとわかっていても、好きな子が他の男の事ばかり話すのを聞くのはいい気はしない。


ただ一つ。
昔の紺野と変わったのは、そんな話をした後、最後には必ず切なそうな顔をする事。


「……どれだけ私がダイくんの事好きになっても、ダイくんはもう水嶋さんを見ているんだよね」


水嶋といる大護を目の当たりにした事によって、この恋が実らないものであるという事は、本人も自覚しているようだった。

たぶん、紺野が見ている以上に二人は急接近しているんだけど。
大護から聞いた一緒に住んでいるという話や日々煩悩と闘っているという話は、口が裂けても言えないや。


「あーーーっもう!中学の時の自分、何やってたんだろ!なんで告白しなかったかなぁ」
「だから俺言ったじゃん」
「…っそうだけど!うわーっ!昔の自分殴ってやりたいーっ!」
「……やめとけって。大護の大怪我超える気かよ」
「私そんなに乱暴じゃないもん!」

隣の俺をポカスカと殴る。
本人は軽く殴ってるかもしんないけど、結構痛いって事は黙っておこう。


「……片想いって、つらいんだね」
「なにを今更」

しょぼんと項垂れると、ぼそっと呟く。
そりゃそうだよ。
だってお前がしていた“片想い”は、“両想い”だったんだから。


「テツくんの片想いもつらい?」
「そりゃな。紺野と同じ一方通行だからな」
「テツくんの好きな人にも好きな人がいるの?」
「いるよ。最初っからずっといる」
「好きって言わないの?」
「今はね」
「……つらいのに、ずっと好きなの?」
「しょうがねぇだろ。それでもいいって俺が思ってるんだから」
「なんか……テツくん大人」
「大人の男の魅力、伝わった?」
「大人の男はそういう事言わない」


そう。
これが今の俺の最短距離。

今はこの位置でいいんだ。


……今は、ね。


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