Dear Hero
文化祭が始まった。
クラスのみんなからのリクエストを受けて、俺の掛け声で模擬店が開店する。

「そいじゃあ…お客さんも俺たちも、みんなが楽しめる文化祭にしよう!やるぞ!!」
「「おおおおおっ!!!」」


恨めしそうに俺を睨む大護の姿は、見なかった事にした。


大護が昨日の夜までかかってなんとか完成したという当番表が配られる。
予想はしていたけど、大護の休憩時間は水嶋の時間と同じだった。
わかってはいたけど、もう少しさり気なくやれよな。

噴き出しそうなのを堪えて、ポケットから携帯を取り出すとメールを入れる。


[大護の休憩時間、14時〜]

1分も経たないうちに携帯が震えて返事が来る。

[ありがとう!神様仏様テツくん様]

最後はテンション高そうな表情の絵文字で締めくくられていた。


昨日、遅くまでやっていたのかな。
疲れたような顔の大護がどこかにトリップしたようにぼーっとしている。

「大護、起きろ。客来てるぞ」

目の前でパンと手を鳴らすと、はっと気づいたように戻ってきた。
頭の中でサーフィンでもしてたんだろうな。

「哲ちゃん。ごめん、ありがと」


ニカッと笑うと入口へと移動する。
それを見て、俺も持ち場の調理台へつく。


さぁ。
文化祭のスタートだ。





俺の担当は調理班。
開店当初はまばらだった客足も、1時間を過ぎる頃には行列ができるようになり、俺は熱気がもうもうと立ち上るホットプレートの前で、ひたすら何十枚ものパンケーキを焼き続けていた。
あとで注文係に聞いた話では、注文する際に接客は孝介にしてくれという謎の要望が絶えなかったらしい。


文化祭事務局から戻ってきた大護が、注文の多さに手が回らなくなってきた調理班のヘルプに入ってくれた。

「……なんかテンション落ちてね?」
「ははは……せっかく作っても当番表通りにはいきませんなぁ…」

「ははは」なんて言ってるけど、目が全然笑ってない。
そういやさっき、「休憩行ってきます」と水嶋が一人で教室を出て行った気がする。


ははーん。作成失敗したんだ。

堪え切れなくて、声に出さないようにはしていたのだけど、「笑うなよ!」と足を思いっきり踏まれてしまった。


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