Dear Hero
3年生の校舎。
展示も模擬店もクオリティがハンパなく高かった。
高校生活最後の文化祭だもん。
そりゃ楽しむよな。

騒がしい校舎の中を歩きつつ、二人の姿を探す。


一階。

二階。

三階。


四階への階段を上ろうとしたときに、小さく話し声が聞こえた。
先ほどとは打って変わって静かな場所。
教室とは反対側。
声の聞こえる方に静かに足を進める。

角を曲がろうとしたところで、ベンチに座る人影を見つけて慌てて戻った。


「今日、一緒に回れてよかった」


心臓がドクンと震えた。
紺野の声だ。
ただ立っているだけなのに、呼吸ができなくなってしまう。


足が、動かない。


「ちょっとの時間だけだったけど、すごく楽しかったよ。久しぶりだね、ダイくんとこんな風に並んで歩くの」
「……」
「あのね、私ね」


俺の中の警笛が鳴る。
聞いちゃいけない。



「小さい時からずっと、ダイくんの事が好きだよ」



失恋したと嘆く紺野に“諦めるのか”と檄を飛ばしたのは俺。
大護を諦めかけた紺野に“気持ちを伝えろ”と奮い立たせたのも俺。
今日、二人が一緒に回れるように仕向けたのも俺。

全部、俺が導いてきたはずだったのに。


紺野の言葉を聞いたら、苦しくて涙が出そうになった。

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