Dear Hero
「……ありがとな。めちゃくちゃ嬉しい」


もう一度ベンチが軋むと、大護が優しい声を紡ぐ。
紺野のほうと息を吐く声が聞こえる。
告白したのは俺じゃないのに、次の返事を聞くのが怖い。


「でもごめん。今好きな子がいるから、紺野の気持ちは受け取れない」
「そっか……。そう返ってくると思ってたんだけどね」


小さく笑う声。
俺だってそう返ってくるって思ってた。
返ってきて欲しかった。


「本当はね、ずっと伝えないつもりだったんだ。でも、今日一緒に過ごしてたら、気持ち止まらなくなっちゃって…。突然ごめんね」
「謝るなよ。俺はその…言ってもらって嬉しかったわけだし…」
「でもどうせ振るんでしょ?」
「そうだけどさぁ……」


明るく振舞う紺野の声と、ちょっと困ったような声の大護。
昔と同じようなやり取りだ。

だけど、紺野の声は、かすかに揺れている。


「ねぇ、今好きな子って水嶋さん?」
「!?誰に聞いたの!?」
「誰にも聞いてないって。見てたらすぐわかるよ。私がどれだけダイくんの事見てたと思うの?」


ウソつけ。
何度も俺に嗅ぎ回ってたじゃねぇか。


「水嶋さんの事を見るダイくん、今まで見た事ないくらい優しい眼してるよ。ちょっと…妬いちゃうくらい」
「……」
「付き合ってるんだと思ってた」
「いや、それは…明日言おうと思ってて……」
「わ、リアルタイムだ!明日振られた後に言えばよかったなぁ」
「おい!何で振られること前提なんだよ!」
「あははっ冗談だよ」


楽しそうに笑ってるけど、無理してんのまるわかり。
声、全然元気ねぇじゃん……。


携帯のアラーム音が鳴る。
自分のものかと思って焦ったけど、大護のものだった。


「……じゃあ俺、行くな」
「うん。私は…もうちょっとここにいようかな」
「今日はありがとう。俺も、紺野と一緒に回れて楽しかったよ」
「またそういう事言う。諦めきれなくなるじゃん」
「そう言われても……」
「冗談だってば」



「またな」と再会の言葉を残して大護は立ち去って行った。
その場から動けずにいる俺。


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