Dear Hero
間もなく、鼻を啜る音と嗚咽が漏れてくる。
大護がいなくなるまで、我慢したんだな。
……強がりやがって。

声をかけるべきか、かけないべきか。
躊躇っていると、ぽつりと呟いた声が耳に入る。


「……テツくん……」


呼びかけるわけでもない。
無意識に出てきた声だと思った。

心が、引っ張られる。
いつの間にか足が動いていた。
角を曲がって、紺野の前で立ち止まる。


人の気配に気づいたのか。
顔を上げる前に、首にぶら下げていたタオルを頭にかけた。
泣き顔を、少しでも隠せるように。


「え……?なに、これ…」
「クサイとか言うなよ」
「…っ!テツくん…?どうして……」
「紺野が、呼んだんだろ……」
「………っ」

せっかく隠したのに、紺野はタオルを剥ぎ取ると立ち上がる。
ここにいるのが信じられないとでも言うように。
呆けた顔でじっと見つめ、俺が確かにここにいるのだと確認すると、堰を切ったように涙を溢れさせた。


「テツくん……っ」
「………」
「振ら……振られ、ちゃったぁ……」
「……うん」
「気持ち……っ受け取れないって……」
「…うん」
「好きな子……いる…って…」
「うん」
「でも……」
「………」
「嬉しいって……言ってくれたよ…」
「うん……」
「やっと…やっと言えたよぉ……」
「うん。がんばったな」


しゃくりあげながら一生懸命伝えてくれる紺野。
頭をぽんぽんと撫でると、堪え切れずに声を出して泣いた。


静かな廊下に、紺野の泣き声が響く。

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