Dear Hero
前も、こんな事あったな。
俺の前で、紺野が苦しそうに泣きじゃくる。


あぁ、あの時も抱き締めたくて仕方がなかったんだ。


今だって。
紺野の泣き顔は見たくない。
抱き締めてしまえば見なくていいのに。


でも、やっぱり俺はそれができなくて。

紺野が持ったままのタオルを受け取ると、涙でぐしょぐしょの顔に押し当てる。


「ちょ…待って、メイクとれちゃう…」
「せっかく泣いてんの隠してやったのに」
「………すぐ、治まるから…」
「できんのかよ」
「………」
「今泣き止んでも、どうせ後から一人で泣くんだろ」
「………っ」
「紺野の泣いてるところなんて見たくないけど、俺のいない所で泣かれる方が嫌だ」
「………」
「それとも、お前の大護への気持ちって、ちょろっと泣いただけで気が済むようなもんだったの?」
「……っ!」
「じゃあ、無理して止めなくていいよ」
「………」
「ここには、俺しかいないから」



あの日と同じように、紺野は俺の胸に頭を押しつけてわんわん泣いた。
二年前と違うのは、学ランがカッターシャツに変わった事と、同じ目線にいたのに俺が見下ろすようになった事。
そして、紺野の恋が終わりを迎えた事だった。


泣き顔なんて見たくない。
でも、孝介がいて俺の心が軽くなったように。
少しでも紺野の心が軽くなるのであれば、傍にいてあげたかった。



“大事な友だち”として、最後の役目だ。




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