Dear Hero
「………紺野」
「え?」
「俺が好きなのは、紺野だよ」


きっと俺の顔は真っ赤になっている。
それでもいい。
紺野をまっすぐに見つめて、長年の気持ちを声にのせた。


「え……えええ…?」


慌てふためき、握っていた手を離す。
その手を逃さないように、今度は俺が握る。


「……念のために言っておくけど、振られて傷心中のお前を慰めるために言ってるとかじゃないからな」
「………」
「中2の時、空手部の練習場で初めて会った時から、ずっと紺野が好きだ」
「………」
「お前が大護の事好きなのも知ってた。大護の事好きなのもひっくるめて、紺野が好きだった」
「………」
「………お前の事、めちゃくちゃ好きで言いたい事もいっぱいあったのに。紺野が無理やり言わせるから、何から言えばいいのかわかんなくなっちまったじゃん」


……こんな情けない告白するつもりじゃなかったのに。
ついに吐き出した長年の想いも、だんだん後悔に変わっていく。

その証拠にほら。
紺野はとても信じられないとでも言うように、息をするのも忘れてしまっている。


握った手に力を入れると、はっと気づいたように体を揺らす。


「あ、あの…えっと、ちょっと待って。頭が混乱してて……」
「だから、“覚悟ある?”って聞いたのに」
「だ、だって……まさか私…なんて思わなかったし」
「“後悔しない?”って聞いたのに」
「後悔なんかはしてないよ……。でも、そんな素振り全然見せなかったじゃん……」
「見せないようにしてたんだよ」
「なんで……」
「大護の事想ってたから」
「………っ」
「俺が紺野の事好きって言ってたら、大護の事なんて相談もできなくなってただろ?」
「………」
「“紺野に”幸せになって欲しかったから。大護の事好きならうまくいって欲しかったから。だから言わなかった」
「………っ」


困ったように眉毛を下げる紺野。

あぁ。
こんな顔させたかったわけじゃないのに。

< 268 / 323 >

この作品をシェア

pagetop