Dear Hero
「………ごめんなさい」


刺されたように、心がずきんと痛む。


「……それは、無理ですよって意味のごめん?」
「違うの。今までテツくんの事、そういう風に見ていなかったから…」
「“大事な友だち”、だったもんな」
「だから……急にそうやって見る事ができなくて……」
「そうやってって、俺を男としてって事?」


気まずそうに首を縦に振る。

わかっていたけど。
自分がそう見せるようにしてたんだけど。

やっぱりちょっとショックだった。


「今は……テツくんの事、そういう風に見れない」
「……別に、今すぐ返事くれっていうわけじゃないよ。俺だって突然だったし、紺野が俺を男として見てないのもわかってたし、お前振られたばっかだし」
「………」
「でも、もうお前への気持ち隠さなくてよくなったから。俺、攻めるからな」
「………」
「紺野にちゃんと男として見てもらえるように。好きになってもらえるように。今まで抑えてた分、全部出すからな」
「………」
「だから……紺野は、目を逸らさずに俺の事見て欲しい」
「………っ」
「……それでもダメだったら、そう言ってくれたらいいから」



腕時計の長い針が、6の文字へと近づいている。


「……そろそろ、戻らないと」


握っていた手を離すと、名残惜しそうに追いかけるのを見てドキリとした。
こんな些細な事にさえ、自惚れてしまう。
紺野に触れ続けていた右手は、火傷をしてしまったように麻痺している。
今日は、右手が洗えない。


「びっくりさせて、ごめんな」
「………っ」
「あと、聞いてくれてありがとう」
「………」
「それから……」
「………」
「………」
「………?」
「………好き」
「………っ!」


顔を真っ赤にさせて慌てる紺野。
俺が頭の中にいて、俺の事を考えてそんな反応するのが嬉しくて、ちょっとだけこそばゆかった。
そんな気持ちを隠すようにニシシッと笑って、紺野のもとを離れる。




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