Dear Hero
「…へ?」
「ご、ごめんなさい…澤北くん、お兄さんみたい…」

くすくす笑いながら弁解する姿に、あまりにも自分が熱くなっていた事に気付かされ、途端に恥ずかしくなる。

「あ、いや、ごめん…妹いるから、ちょっとかぶって、つい…」
「いえ…ご心配…かけてすみま…せん…」
「……笑いすぎ」

なおも笑いが止まらない水嶋。初めて向けられた笑顔が、俺の失態がきっかけとは…。
むすっと膨れる俺の顔を見ては、また笑って。
ようやく落ち着くと、改めてこちらに向かい深々と頭を下げる。

「今日は本当に、ご迷惑をおかけしてすみませんでした。澤北くんが来てくれて、嬉しかったです。ここまで送ってくださったのも、お手間をおかけしてしまって…」


———まただ。
今まで抱いていた違和感が、気にクリアになった。


「なぁ水嶋。こうゆう時って、“すみません”じゃなくて“ありがとう”って言うんじゃないかな」
「……?」
「今回の事、もし水嶋が“迷惑をかけてしまった”って思うマイナスの気持ちより、“嬉しい”って思ったプラスの気持ちがあるのなら、その気持ちを相手に伝えたほうがいいんじゃない?」
「プラスの…気持ち…?」
「きっと、周りも人たちも“ごめんなさい”って言われるより、“ありがとう”って言われた方が気持ちいいよ。この人の力になれてよかったって、その人だって嬉しくなる」
「嬉しく…」
「いつもみんなに頼まれ事されて、“ありがとう”って言われる機会の多い水嶋は、そう思わない?」


まるで、初めて聞いた単語を繰り返し覚えるかのように、小さな声で何度も呟く。

「単純な事だよ。嬉しかったら“ありがとう”!リピートアフタミー?」
「…あ、ありが…とう…」
「グッジョブ!」

なんだか爽やかに気分になってニカッと笑いながらサムズアップすると、はっと我に返って慌てふためく俺。

「…って!なんかこれ俺が無理やり言わせてる感じだよな!あのね、違くて、俺が言ってほしいとかじゃなくてだな、あの、あくまで一般論でね…」

ふと見ると、またもくすくす笑っている水嶋。
数十分前まで、危ない目にあってぐしゃぐしゃに泣いてたというのに…。
一呼吸おいて気持ちを落ち着かせると、眼鏡越しに水嶋の瞳をとらえる。
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