Dear Hero
「…もう一人、立候補者いないようでしたら私がやります」

その声に、上げかけた手はそっと落とされる。

「でも水嶋さん、兼任は…」
「十和田くんも風紀委員と兼任ですよね?一時期だけですし、他にやりたい方もいないみたいですし…」

教室を見渡す水嶋と、目を合わせないようにさっと顔を背けるみんな。
そりゃあ…普通はこんな面倒くさい事、誰もやりたがらないもんな。
手招きされて、前に出ると試合に勝ったボクサーよろしく、孝介に左手を掴まれ上げられる。

「じゃあ、実行委員は大護と水嶋さんでOK?」
「「賛成—!」」

途端に歓声の上がる教室。
自分に回ってこないとわかったらこれだ、ちきしょう。


「…あ、そうそう。実行委員は夏休みも何度か出てきてもらわないといけないけど、よろしく」
「…は!?聞いてませんけど!?」
「言ってなかったっけ?」
「初耳ですけど…」
「じゃあごめん、今言った」

俺の肩にポンと両手を乗せると、にこりと笑う。
男から見ても整った爽やかな笑顔に惑わされそうになりつつ、眉間にシワを寄せて必死に伝えた抵抗の意思は孝介には届かなかった。
< 30 / 323 >

この作品をシェア

pagetop