Dear Hero
結局、あの後はクラスの出し物は何にするかという議題で白熱したバトルが繰り広げられ、女子たちの強い強い主張にてカフェをやる事までが決定した。
「みんなでお揃いの衣装着て接客したーい」だ、そうで。
途中でホームルームの時間が終わってしまったのと、詳細を詰めるのは休み明けでも間に合うだろ、という担任の意見から本日はそこでお開きに。


一学期の課程はすべて修了し、今日はこれから三人でカラオケにでも行こうかと、帰り支度としていると声をかけてきたのは水嶋。
「帰り際にすみません」と一言入れてから、何かを言いかけては言葉を飲み込み、きょろきょろしたかと思えば意を決して何かを言いかけまた飲み込み…と、小動物みたいな動きをしている。

「ど…どうした?」
「ご…ご相談があります…!」

何かを伝えたいのだとは思うが、あまりの挙動不審さに思わずかけた声と、その声を合図に水嶋の口から飛び出た言葉。

「相談?」
「す、すみません…こんな事、澤北くんにしかお願いできなくて…」


“お願いできなくて”


小さな彼女の変化に、頬が緩む。
よほど勇気を出したのだろうか。スカートをしっかりと握った両手は小さく震えている。

「…うん。どうした?」

少しでも彼女にプレッシャーを与えないように。
声は柔らかく、ちゃんと聞くよという姿勢を見せるよう、彼女の方へ向き直す。

「あ、あの…私、カフェというものに行った事がなくて…」
「カフェ?」
「やはり文化祭で出し物としてやる以上、それを引っ張る立場である以上、カフェというものがどんなものなのか知っておかなければと思いまして…」
「真面目か」
「ですが、私一人で行く勇気はなくて…だから…その…」

「つまり、大護に一緒に行ってほしいって事?」


隣で聞いていたのか。
なかなか核心を口に出さない水嶋に、業を煮やして口を挟んだのは哲ちゃん。
突然現れた哲ちゃんにか、代弁されてしまった事にか、水嶋はあわあわしている。

「いいじゃん!実行委員二人で市場調査してきたら?」
「市場調査か…確かに俺もカフェとか行った事ねぇな…」
「孝介はともかく、大護そうゆう所に縁ないもんね」
「うるさいよ!哲ちゃんもじゃん!」

意味深にニヤリと笑う哲ちゃんを横目に、俺の答えはもちろん———
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