Dear Hero
今日は、依の誕生日を祝うために三人が俺の家にやってくる。
大学2年の誕生日、二十歳になる。つまりは、解禁日だ。
5月の孝介の誕生日から始まり、俺、哲ちゃん、紺野の誕生日は5人で祝ってきた。
最後の一人が依。
これで全員アルコール解禁だ!と哲ちゃんが酒をたんまり持ってくるって言っていたな。



「つーか、お前座ってろよ。主役だろ」
「大護くん一人で準備できますか?」
「……たぶん」
「そう言って、この前包丁で指切ってましたよね。好きだからいいんですよ」


くすくす笑いながら土鍋の中にたくさんの野菜を放り込むと、「ガスコンロの準備お願いします」と俺に指示を出し、手際よく食器棚からカチャカチャと皿を取り出す。
俺の家なのに、キッチンの主導権は依だ。


いつも使ってるローテーブルじゃ乗り切らないから、折り畳みのテーブルを組み立てて、ガスコンロをセット。
みんなで集まる時は俺の家が定番になってきているから、一人暮らしの割には食器棚もパンパンだし、宴セットは完備している。
皿やグラスも並べ終えて土鍋がぐつぐつといい音をさせてきたところで、インターホンが鳴った。


「悪い、遅くなった」
「水嶋、来たぞー!今日は飲むぞー!」
「依ちゃんおめでとー!お邪魔しまーす!」


三人が登場すると、部屋の中が急に賑やかになる。


大学からはちょっと離れているけれど、8畳ほどの1Kの部屋が手頃な金額で借りる事ができた。
哲ちゃんの兄ちゃんが原付を安く譲ってくれたので、大学までは原付で通ってる。
1Rでもよかったのだけど、依が定期的に飯作りに来てくれるから、キッチンは別でよかったなって思ってる。
とはいえ、家具をそんなに置いている訳ではないけれど、5人も集まれば部屋は狭苦しい。



アツアツの土鍋をコンロに置いて、グラスにビールを注いだら、パーティーの開始だ。


「水嶋誕生日おめでとう!これで水嶋も酒解禁!みんなで飲んで飲んで飲みまくるぞー!それじゃ、かんぱーーーい!!」


盛り上げ隊長・森は今でも健在。
哲ちゃんの音頭と共に、グラスがカチカチと鳴る。


「依ちゃん、お酒は強いの?」
「どうでしょう…母は強かったみたいですが…」


グラスに注がれたビールをちびりと飲むと苦そうに顔をしかめる。
紺野から桃のイラストの描かれたチューハイの缶を受け取ると、新しいグラスに半分だけ注いでビールのグラスと入れ替えた。

「お前の分、俺飲むからチューハイにしときな。多分こっちのが飲みやすい」
「……すみません」
「あんま無理すんなよ」


一口だけ飲むと、「ジュースみたい」と嬉しそうにもう一度グラスに口をつけた。


< 314 / 323 >

この作品をシェア

pagetop