Dear Hero
駅から5分ほど歩いたところで見えてきたのは、オープンテラスのある、木とグリーンで覆われたやわらかな印象のお店。
開店時間に合わせてきたはずが、すでに3組ほどが並んでいる事から、人気のあるお店なのだろう。
普段から行列ができる事が多いのか、待ち時間を飽きさせないようにメニューが置いてあったり、外にある黒板でおすすめメニューの紹介なんかをしている。

「これ、いいですね。看板にもなりそう…」

持参してきたのだろうか、デジカメでお店の外観や黒板を撮影しながら熱心にメモを取っている彼女の目は真剣そのもの。
通された店内でも周りを見渡してはメモを取るペンは止まらない。

「あの制服可愛いですね。男女共に着れそうですね」
「このメニュー可愛い…手書き…できるかな…」
「BGMかかってるだけでも気持ちが落ち着きますね。こんなおしゃれな音楽どこで調達できるんでしょうか…」
「店員さんの接客気持ちいいですね。それだけで胸いっぱいです」

「あ、すみません。お店やお料理の写真撮っても良いですか?とても素敵なお店なので…」

勉強熱心なのか、真面目なのか。
ついには店員さんにまで写真撮影の許可まで自ら取ってるし。
意外とよく喋るし、知らない人にも声かけていくし。

学校の中では見られない知らない一面を垣間見た気がして、少しくすぐったくなる。
だとしても……

「少し落ち着けって」

こぼれる苦笑いを抑えつつ、水の入ったグラスを水嶋の前に置くと、はっと気付いて恥ずかしそうに縮こまった。

「ご、ごめんなさい、つい…」
「市場調査とか言われて勉強熱心なのもいいけど、メシ食う時くらいは落ち着きなさい」
「はい…」

水嶋がしゅんとした所でタイミングよく運ばれてくる料理。
クリームやフルーツがたっぷりのったデザート系のパンケーキと、オムレツやスパムののったお食事系パンケーキ。
なるほど。これなら男女で来ても二人とも楽しめるな…なんて考えかけて、向かい側の水嶋と目が合う。

「…今、考えてましたよね…?」
「えーと……ハイ…」

もう一度目が合い、二人同時に笑みが零れた。
相変わらず眼鏡が彼女の表情を半分隠してしまっているけれど、それでも幸せそうにパンケーキを頬張る姿はきっと笑顔なんだろうなぁと感じてしまう。
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