Dear Hero
会計を終え、外に出ると湿気を含んだ蒸し暑い空気がまとわりつく。
男のプライドとして、“ここは俺が”をやってみたかったのに、伝票を持ってさっさとレジに行って「一緒でお願いします」と伝え、危うく俺がおごられてしまうところだったので、慌ててレジに割り込んだ。


この後はカフェ本なんかを買って研究しようかと話していたので、「さて、本屋でも行きますか」と言いかけたところで、隣の水嶋が一瞬ふらついて俺の身体にぶつかる。

「…え、何?大丈夫?」
「…すみません、大丈夫です。ちょっと立ちくらみが…いきなり外出たからですかね」

大丈夫と言いつつ固く笑った顔は少し青白い。
笑顔下手くそか。

「大丈夫な顔してないだろ。どっかで休む?」
「いえ、今だけですので…。日傘持ってこればよかったですね、すみません」
「あ、おい…」

“大丈夫”と言い張り、“さ、本屋へ行きましょう”と歩く足を止めない。
…意外と頑固だ。
また新しい一面を知るのは嬉しいが、今はそんな場合ではない。

「…わっ」

先を歩く彼女にかぶせたのは、腰にかけていた赤いキャップ。
サイズも大きいし、今日の彼女の私服にはまったく似合わないけれど、それでも、これで少しでも夏の日差しから護れるのなら。

「…ありがとうございます」

歩みを止めてこちらへ振り向くと、またあのはにかんだ笑顔。


人には頼らないくせに、頑固で、必死で、頑張り屋で。
きっとこいつは、何言っても譲らないんだろうと思ったから。


「本屋まで、がんばれる?」
「…っはい」
「つらかったらちゃんと言う事。無理はダメ、ゼッタイ」
「はい!」
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