Dear Hero
「ねねっ、ダイくんとこは文化祭何やるか決めた?」
「とりあえずカフェっぽい感じには決まったけど、細かい事はまだ」
「へー、カフェかぁ。ダイくんも接客するのかな。下手そう…」
「失敬だな!バイトで接客業やってますぅー。お手のものですぅー」
「え、今バイトしてるの?どこどこ?今度行くよー!」
「そこ!うるさい!ちゃんと聞きなさい」

打合せ中も、こそこそと話しかけてくる紺野についつい返していると、先生に怒られてしまった。
そんな時でさえ、「怒られちゃったね」と小さく手を合わせてごめんねのポーズを取る紺野は、素直で可愛くて危うくもう一度惹かれてしまいそうになる。
邪心を払うように先生の話に集中しようとするも、もやもやとした気持ちが晴れないまま……


「…すまん。全然話聞いてなかった」
「大丈夫ですよ。私ちゃんと聞いてましたし、メモも取りました」

1時間程で終わった打合せは、ほとんどが先生からの注意事項などの連絡だったようだが、考え事をしていた俺は何一つ話を覚えておらず、水嶋を苦笑いさせた。
荷物をまとめて水嶋と教室を出ようとすると、「ダイくん!」と呼び止める紺野の声。

「ねぇ、今日これから空いてる?良かったらお昼一緒に食べない?」
「…悪い、今日はちょっと予定があるんだ」

俺が隣の水嶋をちらっと見ると、少しだけ寂しそうな顔をしたけどすぐに受け入れてくれた。
いつもサラッとしていて粘る事がないから、すごく気が楽だったんだよな…。

「そっか…残念。じゃあまた今度ね、水嶋さんも一緒に」
「うん、ごめん」
「それとダイくん、また道場来てね…?お父さんも会いたがってるから」
「……また、今度な」

まともに、紺野の目が見れない。
きっと、紺野はその理由もわかっているから、深く追求もしてこない。
それが救いだった。


「…良かったんですか?お誘い断ってしまって…」

紺野が出て行った先を見ながら、申し訳なさそうに問う水嶋。

「先約は水嶋だし。それに今日は俺たちだけじゃないし」



———そう。
今日はこの後、水嶋を連れて俺の家へ行く事になっていた。
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