Dear Hero
カチンコチン。

そんな擬音語が当てはまるように、俺の家を前にすると硬くなっていく水嶋の動き。

「…緊張してんの?」
「お、おともだ…クラスメイトのおうちにお邪魔するなんてほぼ初めてなので…」
「そんな気を遣う家じゃないから硬くならなくていいのに」

玄関を開けて中へ入るよう促すと、右足と右手が同時に出ていた。
普段落ち着いているイメージがある分、極端な姿に思わずにやりとしてしまう。


「あらあら、お帰りなさい。暑かったでしょう」

“ただいま”の声に反応して奥から出てきた母さんの姿に、ピシャッと水嶋の背筋が伸びる。

「は、初めまして…!水嶋依と申します!本日はお招きいただき、ありがとうございます…!」
「あらら、ご丁寧にどうも。大護の母です。どうぞあがって?」

ウフフと微笑む母さんの姿にホッとしたのか、少しだけ表情が緩む。

「なによ、可愛い子じゃないの」
「…ウルサイよ」

リビングへ入ろうとすれ違う瞬間にこそっと耳打ちする母さん。
ニヤニヤした表情は、予想していてもちょっとこそばゆい。


家族には、“一人暮らしをしているクラスメイトに家庭の味を食べさせたい”とだけ話していた。
そんな話に二つ返事で母さんはのってくれたけど、そういえば女子だとは言ってなかったっけ。

「今日、姉ちゃんたちは?」
「美咲は遅番。颯希は部活で夕方には帰ってくるわよ」

“そんなこと言ったの!?相変わらずデリカシーのない男!”と罵っていた姉ちゃんはもしかしたら女子だと感づいていたのかもしれない。
水嶋見つけたら食いつくに決まってるから、今日はいなくて本当に良かったと思う。
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