Dear Hero
2時間程勉強して、ちょっと一息入れようか、というところでドアがコンコンとノックされる。

「お勉強お疲れさま。ティータイムにする?」

手にしたトレーには冷えたアイスティーとシュークリーム。

「これ!駅前の並ばないと買えない所のじゃん!なんでうちにあんの!?」
「当たり前でしょ?普段勉強なんかしないあんたに勉強教えてもらえるんだからこれくらいフンパツするわよ」
「わ…私の事はお構いなく…」
「いいのいいの。私も食べたかったのよー」

やっぱりそっちが本音かい。
もういいでしょ、と母さんを部屋から追い出してシュークリームにかぶりつく。
…ふむ。行列ができるお店のだけあって、なかなか美味い。

「澤北くんのお母さん、面白い方ですね」

小さくシュークリームを食べながらくすくす笑う。

「今日はよそいき仕様3割増しだけどな」
「とても優しそうで、温かくて…ちょっとだけ、羨ましいな…」
「そ、それより!お前本当英語すごいのな。どうしたらそんなにペラペラになるの?」


少しだけ表情が曇った気がして、無理やり話題を変えた。

「どうしたら…ですか」
「俺、今日はなんだか英語楽しいし、英語喋れたらいいなって思ったけど、普段は全然そんな事思わないもん。日本人なんだから日本語だけでいいって思っちゃう」
「うーん……私も楽しいと思い始めたのは最近になってからですし…。しいて言えば、目標があるから、という事でしょうか」
「目標?」
「目標があるから、それを達成するためにはこの壁を乗り越えなきゃいけないってなると、なんだか頑張れちゃいますね」
「目標か…。どんな?」

ふっと眼を逸らされる。
言うか、言わないか考えているのだろうか。
不躾な話だっただろうか。
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