Dear Hero
「海外に行きたいんです。両親に、会いに」

再び顔を上げて俺の眼を見据えた水嶋は、驚くほどに力強い眼をしていた。

「なかなか帰ってこれないという事は、それだけ二人とも忙しいんだと思います。だったら、私が会いに行こうと思って。そのためには、自分で英語を話せなくては何もできないと思ったから」

見た事のない表情に、俺は眼を逸らせなくなる。
水嶋は、強さまで兼ね備えているというの?

「目標と言うか、夢…ですね。夢を叶えるために必死なだけです」

照れたように小さく笑うと、いつものふわりとした雰囲気に戻った気がした。
思わず俺もほうと息を吐く。

「アルバイトして、貯金もしてます」
「水嶋が!?バイトしてんの!?こんなにコミュニケーション下手なのに?」
「そこは否定しませんが…小さな古本屋ですけど、ちゃんと接客業ですよ」

ふふんとでも言うように、にやりと笑ってみせる水嶋。
どうがんばっても笑顔で接客している水嶋の姿が想像できなくてうーんと唸っていると、ふと疑問が湧いてくる。

「そういやお前、生活費とかどうしてんの?バイト代?」
「まさか!学費や生活費は毎月父が振り込んでくれるのでそこから使っています」

“そこまで苦学生じゃないですよ”と否定するけど、“でも”と続く。

「親からのお金では貯金していません。絶対に、自分で稼いだお金で行くって決めてるんです。…なかなか目標額にはたどり着かないですけどね」
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