Dear Hero
夢を語る彼女はとてもキラキラと輝いていて、凛としていて格好良くて。
この小さな身体で、がんばって、たくさんの努力をして…。
何も踏み出せていない自分より、何歩も先を歩んでいるようで何だか悔しくて。
目の前の彼女の頭に手を伸ばすと、訳もなくわしゃわしゃする。

「わああ…ちょ、澤北く…髪ぐしゃぐしゃ…」

慌ててぼさぼさになった髪を直す彼女に構わずわしゃわしゃを止めない俺は、完全に八つ当たりだ。
突然の俺の攻撃にわたわたしていた水嶋も、諦めてされるがままになっている。

「…お前はすごいな。すげーがんばってる。……羨ましいくらいに」

水嶋は前髪と俺の腕の隙間から様子を伺っていて、俺の言動の意図を探っているよう。
今の俺、どれだけ情けない顔してるんだろう。
そんな顔を見られたくなくて、そのわずかな隙間さえも掌で奪う。


「…初めて、夢の事を人に話しました」

頭から下がって視線を遮るような位置に移動していた俺の右手に、ぽつりと呟いた水嶋の指先が触れた。
びくりとして一瞬動きが止まると、彼女の両手に支えられた右手から、隠していた彼女の視線が露わになる。
彼女に触れるのは初めてではないはずなのに、触れられた箇所が熱い。
眼鏡越しの射抜くような瞳は、俺を捉えて離さない。


「今まで誰にも話した事なかったんですけど、不思議ですね…言葉にして口にするとなんだか叶うような気がしてきます」


叶う…?
言葉にすれば本当に叶うのだろうか?


ドクン、ドクンと、鼓動が大きく響く。


「口にしてしまったら、叶えなきゃいけないって気持ちがより強くなるからかもしれませんね」


…無理だよ。
臆病者の俺ではきっと叶わない。


「…澤北くんの夢はありますか?」


夢?

きっと笑われるだけだ。


「……言わない」


声が、掠れる。


「言ってください」
「笑われるから言わない」
「笑いません。絶対に」

じっと見つめる水嶋。

言葉にすれば本当に叶うのだろうか?


……違う。
“叶う”んじゃない。“叶える”んだ。

その為の勇気を、出せるだろうか……?




「……ヒーローになりたい……」



絞り出した言葉。
声が、震える。


「変身なんてできないってわかってる。敵なんか倒せなくてもいい。地球のみんななんてでかい事言わない」


不思議だ。
水嶋の触れている所から、力をもらっているような気さえする。


「強くなりたい。大事な人たちの笑顔を護る、ヒーローになりたいんだ」
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