Dear Hero
子どもの時は何度も口にしていたはずなのに、大きくなるにつれて言えなくなっていた夢。
今まで何度も笑われた。
子どもみたいって何度もバカにされた。
“ヒーロー”という言葉は、口に出してはいけないもののような気さえしていた。


「この前だって、見たろ?クラス中に失笑されてたでしょ。ガキなんだよ、俺の夢は」


思い出すのは文化祭の実行委員を決めた日。
たかが文化祭の出し物であれだけ散々笑われたんだ。
それを本気を目指してるなんて、口が裂けても言えなかった。


水嶋を見られない。笑われるのが怖い。


「……笑えばいいよ。ガキみたいだっ「素敵な夢じゃないですか」



被せられた、思いもよらない言葉を理解するのに時間がかかった。

「…へ?」
「男の子らしくて格好良くて素敵な夢です」

人質のように捕まったままの俺の右腕を掴む手に力が込められ、はっと顔を上げる。

…水嶋は笑っていなかった。
むしろ、なぜか泣きそうな顔をしていた。


「前に、澤北くんの名前の由来を教えてくれましたよね。あの時、澤北くんは『今は全然うまくいってない』なんて言っていましたけど、そんな事はないです。…その夢は、澤北くんだからこそ…“大護”くんじゃなきゃ叶えられない夢だと思います」
「……笑わないの?」
「こんな素敵な夢を笑う理由がありません。もし、澤北くんの夢を笑う人がいたとしても、私は絶対に笑わないし、応援しています。私なんかの応援じゃちっぽけかもしれないけど…それでも…その夢、もっと胸を張ってください」
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