Dear Hero
そこまで言い切った水嶋の目から、耐えきれなくなったようにぽろりと涙が零れる。

「…え?は?え、ちょっと待って、なんで水嶋が泣くの!?」

不意に呼ばれた下の名前にドキリとした気持ちも、苦しかった気持ちも、予想外の展開にどこかへ吹き飛んでしまう。

「だって…私はいつも澤北くんに助けてもらってばかりなのに何も返せていなくて…教えてもらった夢も本当に、すごく感動して、もっと澤北くんのために何かしたいのに何もできないのがもどかしくて…」

ぼろぼろと次から次へと溢れ出てくる涙を拭おうとして、ようやく俺の右手から離れていく両手。
それが少し名残惜しくて、そのまま水嶋の頬に触れて親指で零れる涙を拭う。
少しだけピクリと揺れると潤んだ瞳でこちらを見つめる。


「澤北くんの“大事な人たち”は、とても幸せ者ですね」


水嶋の泣き顔は、もう何度見た事だろう。

「…俺、水嶋を泣かせてばかりだね」


俺は水嶋の笑った顔が見たいのに。
ふるふると横に振られる動作は、“そんな事ないよ”って意味だと捉えてもいい?


「夢…聞いてくれてありがとう。笑わないでくれて、ありがとう。応援してくれて…ありがとう」


もう一度、横に振られる頭。
きっと、“私は何も…”とか言うんだろうな。


「水嶋がいてくれたら、俺は勇気が出せるような気がするよ。ありがとう」




———知ってる?
“大事な人たち”の中に、お前も含まれてるって事。





それぞれの夢が、歩き出した日だった———
< 47 / 323 >

この作品をシェア

pagetop