Dear Hero
助けて
オリエンテーション合宿から1週間。
結局、あれから水嶋と話す事はなかった。

失礼な話だけど、水嶋という存在を知ったのはあの日が初めてで。
もともとクラスで目立つような奴ではなかったけれど、それ以上に、自身が目立たないようにしている感じが引っかかる。

水嶋がどんな奴なのか気になって、意識して目で追っていたけれど……


やたら先生に手伝いを頼まれるわ、
おそらく仲がいいわけでもない女子たちから掃除当番や日直を代わってあげちゃうわ、
教室の中で誰も気付かないような所までお手入れしちゃうわで。

なんだか…周りから“何でもやってくれちゃう都合のいい女”ってレッテル貼られているんじゃないかと思う。

他にも、どうやら毎朝クラスで一番に登校してくるだとか、
移動教室の時には必ず最後に教室に入ってくるだとか、
不可解な行動も多くて、ますます水嶋という人物が掴めない。



「…水嶋って、どんな奴か知ってる?」

平年より早めに梅雨入り宣言が出されたとある日。
雨の影響で自習となってしまった体育の時間に、後ろの席の孝介にそれとなーく聞いてみる。

「水嶋さん?同じ学級委員で何度か話した事はあるけど」

学級委員だったんだ。
確かに、マジメくさい雰囲気はどことなく孝介と似てるかも。
よく先生に良いように使われているのもなんだか納得。


「毎日、朝早く登校しては黒板を綺麗にしてくれたり、花瓶の花を替えてくれたり。みんなの気付かない所で色々と動いてくれているよ、彼女は」
「へー…」
「水嶋といえばさ、援交やってるってウワサあるよね」
「は!?」

隣の席に移動して早弁かけ込んでた哲ちゃんが参加する。
女子の授業は確かバレーだったか。
周りを見回し、雨の影響はなく自習とならずこの教室に本人がいない事に安心する。

「…援交?水嶋が?」
「なんかスーツ姿の若い男と楽しそうにマンションに入ってく所を見たヤツがいるんだって」
「水嶋さんが?見間違いなんじゃないの?」

孝介も信じられないようで目をぱちくりしている。

「俺はしらねーよー。見たヤツがいるってだけで。でもアイツ、意外と胸でかいからあながちないとも言い切れな…イテ!」
「哲ちゃんセクハラ」
「セクハラって上司が部下にするヤツなんじゃないのー!?」

思わず哲ちゃんの座っていた椅子を蹴りとばしてしまった。
< 5 / 323 >

この作品をシェア

pagetop