Dear Hero
まんまと姉ちゃんの企みに嵌った事が悔しくてイライラする俺とは対照的に、「見てください、お庭が見えますよ!かわいいー」とはしゃぐ水嶋。
水嶋は、カップルなんて思われて何も気にならないのかな…。

この場にいない人に怒っても仕方ないので諦めて部屋を見渡すと、なるほど、窓の外の小さな庭が眺められる。
机が窓側に設置され、そこに二人並んで座るよう。
窓の外の景色を見ながら二人寄り添って飯を食うってわけか。

「とりあえず、座る?」

机の下は掘りごたつになっているので、正座しなくてもいいのは良かったんだけど…


「…ちょっと、狭いですね……」


困った顔の水嶋。
それもそのはず。
机の脚と脚の間に座ろうとすると、どうしても肩が触れ合ってしまう。
薄手の衣服越しに水嶋の体温が伝わってくるぐらいだ。

「これ…ガタイいい人とか絶対入んないやついるよな…」
「正座ですかね」

苦笑いしながら、ランチメニューからパスタセットとキッシュセットを頼む。
建物自体は和の雰囲気なのに、料理は洋食。それでもミスマッチに感じないのはこの懐かしい雰囲気のおかげだろうか。

ハッと気付いたように鞄からいつものメモ帳を取りだす水嶋。

「カップルシート…ちょっとこれ面白いですね。使えますかね」
「ここ、音楽が流れてないですね。雰囲気を壊さないためでしょうか」
「お料理は…さすがに教室では作れなさそうですね…」

一人でブツブツ言いながら、メモ帳にペンを走らすその姿も見慣れているはずなのに、姿が変わってから見ていると、また違った発見がある。

眉間にシワが入る程に真剣な表情。こんな顔してたんだ。
下を向く時はいつも邪魔にならないように耳にかけていた長い前髪。
身体が覚えているのか、自然に指が髪を耳にかけようとするが、短くなった前髪は耳に届かずハラリと落ちてしまう。
それに気付いて「つい、癖で…」と照れ笑いを浮かべる。
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