Dear Hero
どこにいても真面目で、頑張り屋で、必死で。
姿形が変わっても、中身がそのままでなんだか安心してしまう。
一生懸命メモを取り続けるその姿が妙に心を揺さぶって、思わず頭をぽんぽんと撫でてしまった。

気付いてこちらを見上げる水嶋。
座ってても小さな彼女だ。自然と上目遣いになる。
再びドキリと大きく波打つ心臓。

BGMのない無音の部屋。
こんなに近くじゃバクバクと叫び続ける心臓の音が水嶋に聞こえてしまうんじゃないだろうか。
それとも触れた肩から振動が伝わってしまわない?
絡み合う視線はなかなかほどけない。


「…か、カップルシートとか、びびったよな。悪い、姉ちゃんが勝手にやったみたいで…」

罪を姉ちゃんになすりつける事で、なんとか視線を断ち切った。
その後も少しだけ刺さり続けた視線がふっと消えた事で、水嶋にも動きがあったのだとわかる。

しばらく続く沈黙。
これは…なんと文句を言おうか迷っているのだろうか。
水嶋の事だから、きっと俺や姉ちゃんを傷付けないような言い方を探して……



「…澤北くん」

先に沈黙を破ったのは水嶋だった。


「あの……澤北くんは、私とその……カップルのように思われるのは……迷惑…でしょうか…」
「……っ」


ピンク色のトップスをくしゃりと握り、眉を落として苦しさを吐き出すように見つめる水嶋。





……くそ


なんだよ、その表情(かお)……

……反則だろ………


ゴクリと喉が鳴る。
心臓が…はち切れそうだ。



「…っ水嶋!俺………っ」


トントントン。


「……っ!」


出かかってた心臓が一気に飛び出るかと思った。

「お待たせいたしました。お先にキッシュセット、お持ちいたしました。」
「あっわ、私です…はいっ」




……途中で料理を持ってきた店員さんに遮られて、結局そのままになっちゃったんだよな…。
店員さんが現れた事で二人ともパチンと現実に戻ってきたみたいに、目の前の料理にとりあえず食らいついてたっけ。
いつもなら料理の感想を言い合ったり、参考になりそうな所を話し合ったりしていたのに、お互いただ淡々と食べてるだけだった。
俺なんて、味すら覚えていないからな……。


あの時店員さんが来なければ、俺は何て返していたんだろう…?


くそ。思い出したらまたドキドキしてきた。
姉ちゃんのバカ。
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