Dear Hero
「いや、本っ当に申し訳ない!!!」

リビングのソファに座る俺に向かって、勢いよく頭を下げるスーツ姿の男性。

「あ、いやその…誤解解けただけで十分なんで、頭上げてください…」

キリキリと痛む腕をさすりながら何度も伝えて、やっと男性は顔を上げた。




書斎で鉢合わせた俺たちは、一瞬全員がフリーズした後、すぐさま覚醒した男にあっという間に水嶋と引き離され、俺は腕を捻り上げ押さえつけられてしまった。
刑事ドラマでよく犯人が捕まる時のあのシーンのように。
ヒーローを目指す人間がまさか取り押さえられる事になるとは…。

「おい!お前!なに依を襲おうとしてんだよ!」
「いや、俺どっちかって言うと倒された方なんですけど…」
「口答えしてんじゃねぇよ!この不審者が!」
「ちょ、ちょっと待って、樹くん!違うの!」
「何が違うんだよ!…ってあれ?なんかお前、今日雰囲気違う?」
「それは今はいいから!とにかく下りて、話を聞いてってば!」


俺の背中に乗り、ギリギリと腕を締め上げる男と俺の間に入り、必死に叫ぶ水嶋。
ぐいぐいと男を押しているのか、グラリと上にかかる体重の重心がずれ、「いてっ!」と言う声と共に背中の上が軽くなる。

「ごめんなさい…っ澤北くん、怪我はありませんか?」
「あ、うん。所々痛いけどたぶん大丈夫…」


「…え?さわきたくん?」



———その後、水嶋に事の経緯を説明してもらい、俺が不審者でない事をなんとか納得してもらって、今に至るのである。
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