Dear Hero
「どしたの、大護。らしくない」
「…別に」

普段の俺に似つかわしくない暴力に孝介も不思議がるが、俺自身も理由がわからない。


ただ、俺の知らない彼女を知っている二人に少しもやっとしただけだ。
…今まで周りに興味がなかった俺が悪いんだけど。


「水嶋さんと何かあったの?」
「何かあったというか…」



なんとなく。
合宿の時の事を話そうと思って言葉が続かなくなる。

なんとなく。
まだ、俺の中だけに留めたいような気がして。

「何でもない!いやさ、合宿の時に“ミズシマ”って呼ばれてる人いたけど、うちのクラスにそんな奴いたかなーとか思ってさ」
「……最初からいるよ。お前いい加減、クラスの人間の名前くらい覚えろって…」

咄嗟に考えた言い訳にしちゃ上出来かな、なんて思ったけれど、真面目に数学の課題をこなしている孝介にはお邪魔だったようで、ため息と共に「もういい?」というような雰囲気をかもし出されて俺は前に向き直るしかなく。
話の終息を察した哲ちゃんはまた弁当に向き合う。



俺は、窓の外の灰色の空を見上げて、帰るまでに雨が上がればいいのになぁなんて思いながら、孝介と同じように数学の課題を机から引っ張り出した。
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