Dear Hero
一人にしないで
夏休み明けの新学期。
久しぶりの顔合わせに、クラス中は賑わっている。
相変わらず、水嶋は朝一番に登校していた模様。
教室の前に飾られた花は、今朝置いたものなのだろうか。

「おっす大護。焼けたなー」
「はよー…って哲ちゃん、一昨日もそれ言ってたじゃん」
「そうだっけ?」

しししっと笑う哲ちゃんの頬には大きな絆創膏。
従兄弟と遊びに行った川で、飛び込んで遊んでいた時に切れたそうな。
痛々しい。

「おはよう大護。髪伸びたな」
「おはよ…って孝介まで!!それ一昨日にも言われたし!!」
「一昨日から伸びたなって事」
「伸びるか!そんな一瞬で!」


しれっとかわす孝介の首元には見慣れないチェーン。

「あれ?孝介何それ」
「……昨日で、付き合って一年だったから」

カッターシャツから取り出したチェーンには、きらりと光る指輪。

「すげー!ペアリングってやつ?」
「さすがに学校にはつけて来れないし」
「ふわー…ラブラブですなぁ」

こういう事を恥ずかしがる事なく言い切っちゃう孝介は、大人だなぁと感じる。
むしろ、これがイケメンの振る舞いなのか。



「水嶋さん、雰囲気変わったんだね」

突然出てきた水嶋の名前にドキッとする。

「ホントだ!メガネしてないじゃん」
「前髪も短くなってる。可愛くなったね、大護」
「なんで俺に振る!?……ね、姉ちゃんにつかまってやられてたんだよ」
「……え?大護の姉ちゃん?」
「うん」
「いつの間にそんなに仲良くなってんの?」
「……っ!」


しまった。
夏休み中、市場調査に出向いていた事は話していたけど、うちに呼んだ事とか樹さんとの事は話してない。
ちらっと見ると、ニヤニヤしている哲ちゃんと、なんだか微笑ましそうに眺めている孝介。

「ほーう。夏休み中に……ははーん、なるほど…」
「いや…ちょっ……二人が期待するような事何もないから!」
「どうですかねぇ孝介さん」
「そうだな哲平くん。ここは吐かせ「おらーー!お前ら席につけよー!!」

教室に入ってきた担任になんとか救われた。
しぶしぶ自分の席へと戻っていく二人。助かった。
こんな事で動揺しているようじゃ、大人にもイケメンにも程遠いってことかな…。
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