Dear Hero
「水嶋!」

休み時間、教室から出た水嶋を追いかける。
今日は巻いていない、いつも通りのさらさらの髪が揺れた。

「次の時間のホームルーム、文化祭の事決めるだろ。ちょっと打合せしない?」
「……っぜひ!」

急いで教室から例のノートを持ってきて、廊下の隅に移動する。
このノート、結局一冊丸ごと使い切っていた。
行ったお店はそんなに多くないはずなのに、何がそんなに書いてあるのか、正直、俺もよくわからない。

だいたいの流れや伝えるべきポイントなどを確認して、ノートを閉じる。
少し緊張しているのか?水嶋は口を固く閉じたままだ。
学級委員として、人前に立って話をまとめる事はよくある事のはずなのに…。


開け放たれた窓から緩やかな風が入って、眉下まで短くなった水嶋の前髪を揺らした。

「やっぱ髪、その方がいいな」
「……っ」

慌ててノートで顔を隠して俯く水嶋。
メイクもしてないし、先日のような華やかさはないけれど、表情がわかる、それだけで明るく見えるのに。

「隠すなよ。もったいない」
「…怖いんです……」
「怖い?」
「人の……周りの人の目が…怖いんです……」

四方八方からの攻撃を、たった一冊のノートで防ぐかのように小さくなる水嶋を見て、あの日、樹さんから聞いたもう一つの話を思い出す。
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