Dear Hero
***


「もう一つ、聞いておいてほしい話があるんだ」


ひとしきり俺をもみくちゃにした後、少し落ち着いた樹さんはお茶を一口飲んでギィと音を立ててチェアーに座り直した。
先程までのくしゃくしゃの笑顔から一変し、大人の表情になったのに気付いて、俺もベッドに腰掛ける。


「依から、両親の事は何か聞いている?」
「あ、えっと……小学生の時に仕事で海外に行ってしまって帰ってこない、って…」
「……そっか。まだそう思っててくれてるならいいんだけど……」

切なそうに零された笑みに、嫌な予感がする。

「本当は違う…って言い方ですよね」
「…依は知らないのか、そう信じ込んでいるだけなのか、わからないんだけどね」
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