Dear Hero
『依、大事な話があるんだ』
依が安心して話を聞ける相手として選ばれたのは俺。
嫌だった。
すごくすごく苦しかった。
大事に、妹のようにかわいがっていた依に、こんな残酷な事を伝えなきゃいけないなんて。
『まず、母さんの看病してくれて、ありがとな。がんばって自分でお粥作ったんだろ?すごいじゃん』
目線を合わせるようにしゃがんで、小さな頭を撫でる。
下を向いて首を横に振る依は唇を噛みしめたまま。
『あのな、依。急なんだけど、来週から児童養護施設って所に行く事になったんだ…』
『いつきくんも?』
『ううん、俺は行けないから依だけだよ…』
『より、ひとり?』
『……うん。でも俺、いっぱい会いに行くから…だから……っ』
続きは、伝えられなかった。
泣きそうなのを一生懸命堪えて、小さな手で俺のシャツをきゅっと握ると小さな小さな声で呟いた。
『………ひとりはやだよ……。わがままいわない。めいわくもかけないようにいいこにするから…だから……よりをひとりにしないで………』
『……っ』
その小さな身体をぎゅっと抱き締める。
俺、バカだろ。
こんなにも幼い依に、こんなにもつらい事伝えて、さらに苦しさを与えようとしていたなんて。
ただでさえ孤独を味わった依に、さらなる孤独を与えるのか?
『ごめん…本当にごめん』
この家に来てから、わがままも文句も一つも漏らさずに耐えてきた依に、俺は何ができる?
そんな依がやっと零したわがまま、拾わずにいられるかよ。
そのまま依の手を握ると、リビングにいる父の元に急いだ。
大きく深呼吸をして、父の目を見据える。
『親父。俺……俺が依を引き取る』
『お前…何を馬鹿な事を言っているんだ。だいたいお前はまだ大学生だろう。そんな事…』
『家は依ん家のマンションがあるだろ。毎月、生活費は振り込んでるって義兄さんから聞いた。それで何とかやりくりする』
『学生の本分は勉学だ。お前自身もまだ子供なのに、そんなお前が依を育てられるわけないだろう』
『勉強は疎かにしない。留年したりとか、迷惑は絶対に親父たちにはかけない』
『だからと言って…』
『確かに俺は子供だよ。まだまだ未熟だ。でも、子供だからこそ、依の気持ちを思うと施設になんてやれないよ!』
父との交渉は数時間にも及んだ。
正直、どうしてあれだけ必死になって頼み込んでいたのか、俺自身もわからない。
ただ一つ覚えているのは、唇を噛み締めて涙も零さず俺の手を握り続けていた依がとても力強くて、俺も負けられないって思ったんだ。
そして、なんとか父を説得し、俺と依二人の生活がスタートした。
依が安心して話を聞ける相手として選ばれたのは俺。
嫌だった。
すごくすごく苦しかった。
大事に、妹のようにかわいがっていた依に、こんな残酷な事を伝えなきゃいけないなんて。
『まず、母さんの看病してくれて、ありがとな。がんばって自分でお粥作ったんだろ?すごいじゃん』
目線を合わせるようにしゃがんで、小さな頭を撫でる。
下を向いて首を横に振る依は唇を噛みしめたまま。
『あのな、依。急なんだけど、来週から児童養護施設って所に行く事になったんだ…』
『いつきくんも?』
『ううん、俺は行けないから依だけだよ…』
『より、ひとり?』
『……うん。でも俺、いっぱい会いに行くから…だから……っ』
続きは、伝えられなかった。
泣きそうなのを一生懸命堪えて、小さな手で俺のシャツをきゅっと握ると小さな小さな声で呟いた。
『………ひとりはやだよ……。わがままいわない。めいわくもかけないようにいいこにするから…だから……よりをひとりにしないで………』
『……っ』
その小さな身体をぎゅっと抱き締める。
俺、バカだろ。
こんなにも幼い依に、こんなにもつらい事伝えて、さらに苦しさを与えようとしていたなんて。
ただでさえ孤独を味わった依に、さらなる孤独を与えるのか?
『ごめん…本当にごめん』
この家に来てから、わがままも文句も一つも漏らさずに耐えてきた依に、俺は何ができる?
そんな依がやっと零したわがまま、拾わずにいられるかよ。
そのまま依の手を握ると、リビングにいる父の元に急いだ。
大きく深呼吸をして、父の目を見据える。
『親父。俺……俺が依を引き取る』
『お前…何を馬鹿な事を言っているんだ。だいたいお前はまだ大学生だろう。そんな事…』
『家は依ん家のマンションがあるだろ。毎月、生活費は振り込んでるって義兄さんから聞いた。それで何とかやりくりする』
『学生の本分は勉学だ。お前自身もまだ子供なのに、そんなお前が依を育てられるわけないだろう』
『勉強は疎かにしない。留年したりとか、迷惑は絶対に親父たちにはかけない』
『だからと言って…』
『確かに俺は子供だよ。まだまだ未熟だ。でも、子供だからこそ、依の気持ちを思うと施設になんてやれないよ!』
父との交渉は数時間にも及んだ。
正直、どうしてあれだけ必死になって頼み込んでいたのか、俺自身もわからない。
ただ一つ覚えているのは、唇を噛み締めて涙も零さず俺の手を握り続けていた依がとても力強くて、俺も負けられないって思ったんだ。
そして、なんとか父を説得し、俺と依二人の生活がスタートした。