Dear Hero
母の提案
「いやぁ、なんとか形も決まってよかったよかった」
「なーにがよかったよかっただよ、大護なんもしてないじゃん」
「はぁ?俺だってがんばったし!」
「書記をな。残りの9割5分は水嶋さんがキレイにまとめてくれたね」
「途中で何度も二人見つめ合っちゃってさー。あーくそ、いちゃつくなよなー」
「ばっ……!そんな事してねぇし!」
「げ、無意識?大護ウブかよ、そんなキャラじゃねーじゃん」
「だから違ぇってば!!」
「それにしても、カップルシートとはねぇ…」
「……っ!」


結局、あの後のホームルームは水嶋がほぼ一人でまとめあげてくれた。
最初こそ、顔を上げられずに緊張した様子だったけど、隣にいた俺と一度目が合ってからは吹っ切れたかのように。
普段、ろくに人前に立って話をした事がない俺と比べたら、慣れてる水嶋のが上手いと言われればそうなんだけど、あれだけデカイ事言った割に何もできなかったというのはね、さすがにちょっと凹んだんだけれども。

「大護、何かやろうって必死に黒板に書いてるけど、字ィ下手で全然読めないのな」
「だからってさ、“字が汚くて読めません”とかストレートに本人に言わなくてよくね!?」
「確かにチョークって書きにくいよな」
「そう、それ!」
「だとしても大護必死すぎて超ウケた」

思い出してはケタケタ笑い出す哲ちゃんに、むくれる俺。


確かに、前の休み時間に段取りはしたとはいえ、水嶋の統率力はすごかった。
まずは衣装を決めたいと騒ぐ女子たちに、予算や教室で調理できるものは限られているから最初にメニューを決めようと提案し、その後に部屋のコンセプト、衣装は最後だと説明して納得をさせると、衣装については女子が中心に動くようにクラスのみんなを誘導させた。
じゃあまずはメニューをどうするかとクラスがザワザワしだした所で、「少しでも参考になれば…」と例のノートを取り出すと一気にみんなの目の色が変わってたっけ。

「何軒かカフェというものを巡って、私なりにまとめてみたんです」と説明されたそのノートは、あっという間に女子たちの手に渡り、キャーキャー騒ぎの元となってしまった。
ホームルームの時間であるのも忘れたかのように盛り上がる女子たちに、水嶋の声は届かず、困り果ててたなぁ。

…なかなか進まない話し合いに、もちろん俺だって止めには入ったけど「澤北、ウルサイ」の一言で負けたけど。
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