Dear Hero
***


9月。
夏休み明けに決まった内容を基に、文化祭の準備を着々と進めるとある日。

「あれ?水嶋いない?」
「水嶋さんなら家庭科室で衣装作ってるよー」
「おお、サンキュー」

準備が始まってからも、水嶋は引っ張りだこだ。
部活のある人はなかなか準備が手伝えないので、当日店番を長く入ることで帰宅部の人たちがメインで準備をする事にはなったのだけど、教室内の装飾やら衣装やら買い出しやら、水嶋はみんなに呼ばれては律儀に一緒に進めていた。


教室のある棟の隣にある家庭科室。
数人の女子たちと共に水嶋の姿はあった。

「水嶋」
「澤北くん!どうしたんですか?」

作業中の手を止め、入り口で手招きしていた俺の方へ小走りで駆け寄る。

「どうしたも何も、今日、実行委員の集まりじゃなかったか?」
「……っそうでした!すみません、急いで向かいます…っ」
「あ、いや。先生の会議が長引いたみたいで30分遅くなったらしいから、急がなくてもいいよって伝えに来たんだけど…」

あの水嶋が予定を忘れるなんて珍しい。
慌てて作業台に戻り、自分のスペースを片付けていたところで女子が声をかける。

「水嶋さん今日委員会だったの?引き留めてごめん!水嶋さんの分も私たちやっておくよ」
「え…でも皆さんのご迷惑じゃ…」
「何言ってんの!水嶋さん超忙しいじゃん。あたしら暇だし」
「……」

何かを言いかけたところで、その言葉を飲み込む。
少しだけ考えて…

「では…私の分もお願いしても良いですか…?」
「もちろん!委員会よろしくね
「…っありがとうございます!」

荷物をまとめると、「お待たせしました」と急いで駆け寄ってきた。
なんだか、頬が紅潮して興奮しているみたいだ。


「ごめんなさい。皆さんに一緒にやろうとお声がけいただいたのが嬉しくて、つい夢中になってしまっていました…」
「ふはっ!いい事じゃん」
「皆さんに作業お願いしてしまいましたが、ご迷惑じゃなかったですかね…」
「向こうから言ってくれたんだろ?素直に甘えとけよ」
「……ふふっ、そうですね」

水嶋は、はにかみながらも俺の隣を歩く。

「買い出し班も何かお前に声かけてたろ」
「そうですね、どこで買えばいい?と…。でもその日は装飾班とお店に下見に行くお約束してたので、どこでもいいのでお任せしますって言ってしまいました」
「ははっ上等だよ。そのために班決めたんだろ?それくらいやらせとけって」
「なんだか…いいですね、こういうの…」
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