Dear Hero
***
「……は?」
その提案はあまりにも突然で、俺は飲みかけた食後のお茶を噴き出した。
ダイニングテーブルの隣に座る水嶋も、湯呑を持ったまま開いた口が塞がっていない。
「だから。依ちゃんにうちに住まないかって言ってるのよ」
明日の夕飯はカレーにしましょうかぐらいのノリで、湯気の立つお茶をすすりながらしれっと言葉を零したのは母さんだ。
「いやだから、なんでそうなるんだよ…」
どうしてそうなるのかが全然理解できなくて、頭を掻く事しかできない。
最近じゃ、水嶋を我が家に誘うのはもっぱら母さんや姉ちゃんで、今日の誘いもいつも通り過ぎて、まさかこんな話が出てくるとは思わなかった。
事態を飲み込めないのは、水嶋も同じようだ。
「お父さんとも相談してね、二つ返事でOKもらったわ」
まだ中学生が寝るような時間ではないのに、颯希だけを自分の部屋に行かせた意味が、なんとなく分かった気がした。
「ずっと考えていたのだけど、やっぱり高校生の女の子の一人暮らしって何かと物騒だと思うのよね。ホラ、ちょっと前にも近くで事件もあったじゃない?」
その途端、ビクッと体を震わせ腕をかき抱くように力をこめる水嶋。
無理もない、水嶋はあの事件の当事者だ。
母さんにはその事を話していなかったから、不意に出てきた話題に表情が強張る。
テーブルの下でそっと水嶋の手を握ると、少しだけ安心したような顔をして体の力が抜けたのがわかった。
「女の子一人でマンションにいるよりも、大人の目の届く所にいた方が安全なんじゃないかってね。万が一、何かあって叔父さんもすぐに駆け付けられない時もあるかもしれないじゃない」
「いや…ちょっと待って、話についてけないんだけど、そもそも俺…ていうか年頃の男がいる家に連れ込んじゃダメでしょ」
「あら、もし大護がやましい事しようものなら美咲があんたを締めあげるわよ」
「うぐ…」
何よそんな小さい事で、とでも言うようにケラケラと笑う母さん。
リビングのソファに顔を向けると、かかってこいや、とばかりにニコニコと不気味な笑顔を向ける姉ちゃん。
なんなの…この家での俺の立場のなさは……。
「……は?」
その提案はあまりにも突然で、俺は飲みかけた食後のお茶を噴き出した。
ダイニングテーブルの隣に座る水嶋も、湯呑を持ったまま開いた口が塞がっていない。
「だから。依ちゃんにうちに住まないかって言ってるのよ」
明日の夕飯はカレーにしましょうかぐらいのノリで、湯気の立つお茶をすすりながらしれっと言葉を零したのは母さんだ。
「いやだから、なんでそうなるんだよ…」
どうしてそうなるのかが全然理解できなくて、頭を掻く事しかできない。
最近じゃ、水嶋を我が家に誘うのはもっぱら母さんや姉ちゃんで、今日の誘いもいつも通り過ぎて、まさかこんな話が出てくるとは思わなかった。
事態を飲み込めないのは、水嶋も同じようだ。
「お父さんとも相談してね、二つ返事でOKもらったわ」
まだ中学生が寝るような時間ではないのに、颯希だけを自分の部屋に行かせた意味が、なんとなく分かった気がした。
「ずっと考えていたのだけど、やっぱり高校生の女の子の一人暮らしって何かと物騒だと思うのよね。ホラ、ちょっと前にも近くで事件もあったじゃない?」
その途端、ビクッと体を震わせ腕をかき抱くように力をこめる水嶋。
無理もない、水嶋はあの事件の当事者だ。
母さんにはその事を話していなかったから、不意に出てきた話題に表情が強張る。
テーブルの下でそっと水嶋の手を握ると、少しだけ安心したような顔をして体の力が抜けたのがわかった。
「女の子一人でマンションにいるよりも、大人の目の届く所にいた方が安全なんじゃないかってね。万が一、何かあって叔父さんもすぐに駆け付けられない時もあるかもしれないじゃない」
「いや…ちょっと待って、話についてけないんだけど、そもそも俺…ていうか年頃の男がいる家に連れ込んじゃダメでしょ」
「あら、もし大護がやましい事しようものなら美咲があんたを締めあげるわよ」
「うぐ…」
何よそんな小さい事で、とでも言うようにケラケラと笑う母さん。
リビングのソファに顔を向けると、かかってこいや、とばかりにニコニコと不気味な笑顔を向ける姉ちゃん。
なんなの…この家での俺の立場のなさは……。