Dear Hero
「もちろん、依ちゃん一人で決められる事じゃないから、ちゃんと叔父さんと相談してみてね。一つ言っておくと……」

湯気の消えかけた湯呑をテーブルに置くと、母さんは水嶋をじっと見つめて続けた。

「迷惑かけるんじゃ、とか思わないでね。大護がもう一人増えたらそりゃ大変だけど、家事のお手伝いもいっぱいしてくれる依ちゃんだったら何にも負担にならないわ。うちの子たちと違って」

急に鬼の形相がこちらを向いて、俺と姉ちゃんは思わず顔を背ける。

「むしろ、夕飯の支度とか手伝ってくれるようなら、私ももうちょっとパートの時間増やせるのよねぇ…」

わざとらしく頬に手を置いて、遠くを見つめる母さん。
でも、水嶋に気を遣わせないための条件なんだろうなと思った。
それでも水嶋は硬い表情で下を見つめたまま、俺の手の中で小さな拳を震わせている。


「返事はいつでもいいわ。依ちゃんの気持ちの整理がついたら教えて?」
「…ありがとう…ございます……」


それだけ伝えると、母さんはキッチンへ戻って夕飯の片づけを始めた。
掠れそうな水嶋の声は、母さんに届いたかはわからない。


「…帰るか。送るよ」


こちらを向きはしなかったけど、小さく頷いた。
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