Dear Hero
アイス買った、ジュースも買った、電球も買った。
ついでにスナック菓子も新しい味が出ていたので、明日哲ちゃん達と食べようとついつい買ってしまった。
それと、「こちらの商品お買い上げの方にお渡ししています」と白い猫のストラップをもらったので、それらをビニール袋に押し込む。


外の雨はいくらか落ち着いて、傘を打つ雨音もだいぶ静かになっていた。
駅と家のちょうど中間地点にあるコンビニは、晴れていたらチャリで1,2分で着く距離なのに、徒歩だと何倍も遠く感じる。



「———……てください!」

小雨になってきた分、まとわりつくような湿気に不快感が増してくる中、風呂入る前に気付いて良かったな、なんて思いながら歩いていた所で、誰かの声が聞こえた。



「———…やって言ってるでしょ!放してよ!」

辺りを見回して声の出所を探すと、数メートル先の公園の入り口で動く人影が見える。
ブランコとジャングルジムしかないような小さな公園。
昼間、子どもたちでにぎわう公園の雰囲気とは似つかない、嫌な空気を感じていると、揉める男女の姿があった。

「いいじゃん、雨宿りがてらちょっと話そうよ」
「お断りします!放してください!」
「そんなカタイこと言わずにさー」

背が高くて、声の感じからしても気の強そうなパンツスーツ姿の女性。
そんな女性を無理やり公園に引き込もうとしている、これまたあからさまにチャラチャラした感じのヤンキーぽい男。
一目見て、明らかにやばそうな状況。




“助けなきゃ”


そう思うのに、俺の脚はそこに根が生えたようにピクリとも動けない。
二人の間に入って男を止めるだけ。
たったそれだけの事なのに。


気は強そうでも女性だ。男の力には敵わず、だんだんと公園に引きずり込まれていく。
姿が見えなくなるその一瞬、揉め合う二人は俺の姿を見つけて目が合う。
女性は助けてと必死に訴えるその目で。
男の方はお前なんかに止められるのか?とでも言いたげにニヤリと笑った目で。





『…っテメェこのクソガキ!何してんだゴルァ!』


『お願い、もうやめて!ダイくん逃げて…!』



ゾクリとしたその瞬間、頭に思い浮かぶのはあの時の記憶。
手が微かに震えているのがわかる。
なのに脚は俺の意思をまるで無視して、自分のものではないかのように地面にくっついたままだ。
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