Dear Hero
闘いの始まり
「荷物はこれだけでいいのか?」
「そうですね、後は必要な時に改めて取りに来ます」
「よし、じゃあ車に運んじゃおう!」
母さんが特大の爆弾を投下してからというもの、話はあれよあれよという間に進んでしまった。
話のあった3日後に、おしゃれな手土産を引っ提げて我が家へ挨拶に来たのは樹さん。
「長い事、依がお世話になっていたにもかかわらず、ご挨拶が遅れてしまい、大変申し訳ありません。改めまして、依の叔父の中野樹と申します」
「あらあら、ご丁寧にありがとうございます。お気遣いいただかなくても良かったのに」
「いえ、大護くんのご姉妹にもとても良くして頂いていると伺っていたので。心ばかりの物ですが」
「仕事の名刺で失礼します」とスーツの胸ポケットから名刺入れを取り出し、スッと名刺を手渡す動きがとてもスマートで、これが大人の男なんだと改めて見惚れてしまった。
名刺と手土産を受け取った母さんは、「まぁ、テレビで見た事あるお菓子だわ。娘たちが喜びそうね。ありがたく頂戴いたします」とホクホクしている。
ダイニングテーブルに向かい合って座る、澤北家と水嶋たち。
樹さんの前に出された紫色の花柄のコーヒーカップは見た事ないものだったけど、きっとお客様用の物なんだろうなと思った。
「いつも依をお邪魔させていただき、ご馳走にまでなっているとの事、本当にありがとうございます」
テーブルに額がついてしまうんじゃないかと思うくらい、深々と頭を下げる樹さんを見て、慌ててペコッとお辞儀する水嶋。
「今日はこんな料理をご馳走になった。今日はこんな料理を教えてもらった、と毎回嬉しそうに話すんです。こんなに楽しそうな依を見るのは久しぶりで、僕まで嬉しくて…」
「ふふっ。私も娘とお台所に立つのが夢だったの。うちの娘たちはなかなか手伝ってくれなくて…。依ちゃんがその願いを叶えてくれたから、私もとっても嬉しいんですよ」
「そう言っていただけると幸いです」
水嶋と似たふわっとした笑みが樹さんにも出てきたところで、すぐにまた表情が変わる。
大人モードの樹さんだ。
「早速本題に入りますが、この度はありがたい申し入れ、感謝いたします。依とも何度も話し合いまして、彼女の気持ちを優先する事にしました」
“YES”か“NO”か、ついに結論が出る。
俺の向かいに座る水嶋は、不安でいっぱいの表情だ。
4人を包む空気が、緊張感でピリッと引き締まる。
俺まで心臓のバクバクが止まらない。
口を開いたのは、樹さん。
「依を、お願いできますか?」
「もちろんよ。依ちゃんなら大歓迎だわ。もう一つの家族だと思ってくれると嬉しいな」
ぷつんと緊張の糸が切れる中、母さんが背後に音符を出しながら上機嫌でマグカップのコーヒーをすすると、今度は二人揃って「よろしくお願いいたします!」と勢い良く頭を下げた。
テーブル越しに伝わった振動。
水嶋はデコぶつけたんじゃないのかな。
「さて、じゃああんたたちは2階に行ってなさい。ここからは大人の話」
追いやられるように水嶋と俺の部屋に行った後も、母さんたちは長々と話をしていた。
「そうですね、後は必要な時に改めて取りに来ます」
「よし、じゃあ車に運んじゃおう!」
母さんが特大の爆弾を投下してからというもの、話はあれよあれよという間に進んでしまった。
話のあった3日後に、おしゃれな手土産を引っ提げて我が家へ挨拶に来たのは樹さん。
「長い事、依がお世話になっていたにもかかわらず、ご挨拶が遅れてしまい、大変申し訳ありません。改めまして、依の叔父の中野樹と申します」
「あらあら、ご丁寧にありがとうございます。お気遣いいただかなくても良かったのに」
「いえ、大護くんのご姉妹にもとても良くして頂いていると伺っていたので。心ばかりの物ですが」
「仕事の名刺で失礼します」とスーツの胸ポケットから名刺入れを取り出し、スッと名刺を手渡す動きがとてもスマートで、これが大人の男なんだと改めて見惚れてしまった。
名刺と手土産を受け取った母さんは、「まぁ、テレビで見た事あるお菓子だわ。娘たちが喜びそうね。ありがたく頂戴いたします」とホクホクしている。
ダイニングテーブルに向かい合って座る、澤北家と水嶋たち。
樹さんの前に出された紫色の花柄のコーヒーカップは見た事ないものだったけど、きっとお客様用の物なんだろうなと思った。
「いつも依をお邪魔させていただき、ご馳走にまでなっているとの事、本当にありがとうございます」
テーブルに額がついてしまうんじゃないかと思うくらい、深々と頭を下げる樹さんを見て、慌ててペコッとお辞儀する水嶋。
「今日はこんな料理をご馳走になった。今日はこんな料理を教えてもらった、と毎回嬉しそうに話すんです。こんなに楽しそうな依を見るのは久しぶりで、僕まで嬉しくて…」
「ふふっ。私も娘とお台所に立つのが夢だったの。うちの娘たちはなかなか手伝ってくれなくて…。依ちゃんがその願いを叶えてくれたから、私もとっても嬉しいんですよ」
「そう言っていただけると幸いです」
水嶋と似たふわっとした笑みが樹さんにも出てきたところで、すぐにまた表情が変わる。
大人モードの樹さんだ。
「早速本題に入りますが、この度はありがたい申し入れ、感謝いたします。依とも何度も話し合いまして、彼女の気持ちを優先する事にしました」
“YES”か“NO”か、ついに結論が出る。
俺の向かいに座る水嶋は、不安でいっぱいの表情だ。
4人を包む空気が、緊張感でピリッと引き締まる。
俺まで心臓のバクバクが止まらない。
口を開いたのは、樹さん。
「依を、お願いできますか?」
「もちろんよ。依ちゃんなら大歓迎だわ。もう一つの家族だと思ってくれると嬉しいな」
ぷつんと緊張の糸が切れる中、母さんが背後に音符を出しながら上機嫌でマグカップのコーヒーをすすると、今度は二人揃って「よろしくお願いいたします!」と勢い良く頭を下げた。
テーブル越しに伝わった振動。
水嶋はデコぶつけたんじゃないのかな。
「さて、じゃああんたたちは2階に行ってなさい。ここからは大人の話」
追いやられるように水嶋と俺の部屋に行った後も、母さんたちは長々と話をしていた。