Dear Hero
「………っ」
「おい!君たち何をしているんだ!」
カラカラに渇いた喉から声だけでも発しようと口を開けたと同時に、後ろから制止の声と共に誰かが走って俺を追い越していく。
「放さないか。彼女は嫌がっているじゃないか」
「何だよクソ野郎!テメェかんけーねーだろ!」
「そうだね、君たちとは何も関係ないよ。でも、困っている女性を放ってはおけないよね」
「うるせーな!殴るぞテメェ!」
「僕は殴ってくれても構わないよ。ただ、そうしたら君が不利になるだけだからね。警察に突き出す事も出来る」
「…っクソ。めんどくせーなー…」
舌打ちをしながら公園から出てくるヤンキー。
「何見てんだよクソガキ!」とすれ違い様に俺の肩にぶつかって、駅の方へと消えていく。
ぶつかった衝撃で、パチンと催眠術が解けたように全身の力が抜けた。脚も、動く。
感覚の戻り始めた脚を動かして、公園の入り口まで進むと、中から先程の女性と男性の話す声が聞こえてくる。
「本当にありがとうございました!この辺マンションばかりで声を出しても誰にも気づかれなくて…」
「無事で何よりでした。いやぁ、怖かった怖かった。本当に殴られたらどうしようってヒヤヒヤで…。僕、声裏返ってませんでした?」
「全然!むしろ格好良かったです。ヒーローかと思いましたよ。本当にありがとうございます」
中を覗くと、ヒーローと呼ばれた男性は30代くらいの気の弱そうなスーツ姿の男性だった。
「あなたの声が聞こえた時、これは危ないと思って思わず飛び込んじゃったんです」なんて苦笑いする男性に、女性はさっきからお礼を言いっぱなしだ。
———ヒーロー、か…。
子どもの頃は溢れんばかりにみなぎっていた俺の正義感は、あの日を境にパタリと姿を消した。
今の俺は、危険な現場に居合わせても声も出せずに見ている事しかできない臆病なガキだ。
チクリと痛む胸を抱えたまま、公園を後にする。
やっぱり、颯希に行かせなくて良かったな、なんてなんとか自分を褒めるようにして。
あれだけひどかった雨は、いつの間にか止んでいた。
「おい!君たち何をしているんだ!」
カラカラに渇いた喉から声だけでも発しようと口を開けたと同時に、後ろから制止の声と共に誰かが走って俺を追い越していく。
「放さないか。彼女は嫌がっているじゃないか」
「何だよクソ野郎!テメェかんけーねーだろ!」
「そうだね、君たちとは何も関係ないよ。でも、困っている女性を放ってはおけないよね」
「うるせーな!殴るぞテメェ!」
「僕は殴ってくれても構わないよ。ただ、そうしたら君が不利になるだけだからね。警察に突き出す事も出来る」
「…っクソ。めんどくせーなー…」
舌打ちをしながら公園から出てくるヤンキー。
「何見てんだよクソガキ!」とすれ違い様に俺の肩にぶつかって、駅の方へと消えていく。
ぶつかった衝撃で、パチンと催眠術が解けたように全身の力が抜けた。脚も、動く。
感覚の戻り始めた脚を動かして、公園の入り口まで進むと、中から先程の女性と男性の話す声が聞こえてくる。
「本当にありがとうございました!この辺マンションばかりで声を出しても誰にも気づかれなくて…」
「無事で何よりでした。いやぁ、怖かった怖かった。本当に殴られたらどうしようってヒヤヒヤで…。僕、声裏返ってませんでした?」
「全然!むしろ格好良かったです。ヒーローかと思いましたよ。本当にありがとうございます」
中を覗くと、ヒーローと呼ばれた男性は30代くらいの気の弱そうなスーツ姿の男性だった。
「あなたの声が聞こえた時、これは危ないと思って思わず飛び込んじゃったんです」なんて苦笑いする男性に、女性はさっきからお礼を言いっぱなしだ。
———ヒーロー、か…。
子どもの頃は溢れんばかりにみなぎっていた俺の正義感は、あの日を境にパタリと姿を消した。
今の俺は、危険な現場に居合わせても声も出せずに見ている事しかできない臆病なガキだ。
チクリと痛む胸を抱えたまま、公園を後にする。
やっぱり、颯希に行かせなくて良かったな、なんてなんとか自分を褒めるようにして。
あれだけひどかった雨は、いつの間にか止んでいた。