【BL】カキツバタ


「勝手なこと言うなよ……」


と、俯いて君は言う。


ずっと近くにいるのが辛くて、独り暮らしを決意したその日に僕は胸の想いを告げてしまった。

もう家には戻らないと決めていたから。


「うん、ごめんね。だめなお兄ちゃんだよね。好きになって、ごめんね。」


もう二度と君に会うことはしないから……

せめて胸に仕舞ったこの想いを吐き出させて欲しかった。



「そうじゃない!」


力強く手を握りしめ、俯いていた顔が上がると視線は僕を捉える。



「ーー勝手に自己完結すんなって言ってんだよ!」


そう叫んだ君の次の行動に、僕は何も出来ず、ただ抱き締められていた。



「………………ぇ?」
「何でもかんでも勝手に決めつけんなよ。俺だって……俺だってずっと兄さんの事好きだったのに。」



苦しげに絞り出された声は、確かに僕の耳に届いた。



「俺だって、ずっと…ずっと前から…」


さらに強まる腕の力に、僕は思わず体を突き飛ばした。


「な、何それ……同情?空良(ソラ)、優しいもんね。お兄ちゃんの事、傷付けないように言ってくれてるんでしょ?」
「なっ、違っーー」
「だって、お兄ちゃんだよ!?男だよ!?そんなわけない……そんなのあるわけない!」
「だから!さっきから勝手に決めつけんなって言ってるだろ!」



初めて声を荒げる弟の姿に、ビクッと体が強ばる。



「俺はアンタの弟で、俺だって男だよ。それでもアンタは俺が好きだと言った。俺はアンタが好きだって言った。同じだろ?」
「でも…………」
「………碧(アオ)、逃げないで。俺を見て。」


逸らしかけた視線を弟に向ける。
そこには真っ直ぐ見つめる瞳があった。


「ーー兄さんで、男である碧が好きだ。」
「……ぁ………でも、こんなの………間違ってる……」
「間違ってなんかない。」


空良はゆっくり近付いて、また僕の手を取った。


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