【BL】カキツバタ



「人を好きになる気持ちに間違いなんてない。」


今度は優しくゆっくりと背中に腕が回されていく。


温もりを感じると、途端に目頭が熱くなった。


「ぁ………僕、僕は空良のお兄ちゃんだから……っ」
「うん。」
「絶対ダメだって……間違っちゃいけないって……」
「うん。」
「ずっと…っ…………ずっと…っ…………そう思ってて」
「うん。」
「ごめんね、ダメなお兄ちゃんで……」
「うん。」


空良はただ抱き締めたまま、懺悔とも言える僕の言葉を受け入れた。


「碧、好きだ。」



僕の頬を伝った滴を空良は指先で掬い上げた。



「可愛い。碧が泣いてるとこ初めて見た。」
「可愛……いくない。僕の方がお兄ちゃんなのに……」
「関係ない。」
「背だって、僕の方が高い……」
「たった5cmだし、すぐに追い抜く。」
「うっ………うぅ………男前。」
「ははっ、何それ。」


滅多に表情を崩さない空良が、幸せそうに笑んだ。



「なぁ、両思いなんだし、引っ越し止めない?」
「……………止めない。」
「何で?」
「無理……今まで通りなんて絶対無理。毎日ドキドキして心臓もたない。」
「ふっ、本当に可愛い。仕方ないな、じゃあ俺が通い詰めてやるよ。」


一人心地に納得して、空良は手を僕の頬に添わせる。


あ、これ……


「き、キスするの……」
「………ふはっ、もう、本当止めて。」
「ぇ?あ、ごめん。」


少し自意識過剰だったかも……。と、目を伏せる。


「違うよ、あんまり可愛いこと言わないでってこと。本当に分かってる?俺、アンタが好きなんだよ?理性、試すようなこと言わないで。」


最後は耳元で囁くように言われ、ビクッと体が震えた。


「今まで色んな女泣かせたくせに、初な反応だな。」
「うるさいよ、あんまり生意気言うな。」


確かに色んな人と付き合ってそれなりの事もした。


でも違う。
僕がずっと、ずっと求めていたのは……。


むーっとむくれている僕に空良は顔を近づける。


あ、と思った瞬間には唇に温かい感触があった。




そう、僕が求めていたのは、この温かで確かな君の熱。



ーーend


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