秋の月は日々戯れに


「あっ、まだ話は終わっていませんよ。ちゃんとこっちを向いてください!さては、浮気相手はやかんですね。わたしにはない、その外側の温かさに惹かれたというわけですか。でも絶対、そんな鉄の塊なんかにわたしの旦那様は譲りませんからね!!」


とんちんかんなことを叫びながら彼女が腰に抱きついてきたおかげで、再び全身に悪寒が走って治りかけた鳥肌が再発する。


「離れてくださいって言ったじゃないですか。それに、やかんは外側だけじゃなくて中も温かいので、もし幽霊とどちらかを選べって言うなら、俺は迷わずやかんを選びます」

「なっ……なんてことを言うんですか!まさか、やかんごとき鉄の塊にそこまで骨抜きにされていたとは……。でも、わたしは負けません!必ずや正妻の地位を守り抜いてみせます」

「……意味分かんないこと言ってないで、さっさと離してください」


ギューッと強まった拘束に、ぞくぞくっと背筋が粟立つ。

仕方がないので、無理やり引き離そうと腰に巻き付いた彼女の腕に手を伸ばしたところで、何となく躊躇して手が止まる。

そうしている間にも、躊躇のない彼女の拘束はどんどん強まって、それに比例するように寒気と鳥肌も悪化していった。






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